小さな声が聞こえるところ35「光に還る子どもたち」

クリスマス・イブの朝早くに、ある保護者さんからメールが入りました。
待ちに待った赤ちゃんが、その日未明に生まれたと。
予定日を8日過ぎてのお誕生でした。
なんだかそわそわしていつもより早々と起きてしまったのは、
そんな知らせが届くのをどこかで感じていたからかもしれません。

実はこの赤ちゃんのお母さんは、この秋に最愛のご長女Tちゃんを急病で亡くされていました。
親子クラスでお迎えしていた私たちにとっても、今年最も悲しい出来事でした。
ご報告に園にいらしたご両親のご様子を、私は一生忘れることはないでしょう。
私たちの悲しみからは計り知れない、深い慟哭の中にいらっしゃるお母さんのことを思うと、
こちらも胸が張り裂けそうな気持ちで過ごした秋でした。

かける言葉など見つからない、というのが正直な気持ちでした。
周囲がどんなに心を寄せても、およそ近づくことのできない悲しみの底にいる方に
届く言葉などあるのだろうか。
自分も衝撃の中にいながら、振り絞って出てきた言葉は「がんばりましょう」という言葉でした。
そんな言葉を口にして良いものかどうか怖くもありましたが、
でも、もしも家族であったら、やはり「がんばろう」と言うのではないだろうか。
死ぬわけにはいかないのだから、どんなに悲しくても苦しくても、がんばるしかないのだろう、
がんばってくれ、なんとかなんとかここをがんばって光を見てください、
と心の底から祈るしかなかったのでした。

子を持つことは人間にとって最大の喜びのひとつでありましょうが、
子を失うことは人間にとって最大の悲しみです。
お母さんは愛情深く穏やかな方で、夏至の季節に生まれたTちゃんも、
おひさまのように穏やかにすくすくと育っていました。
子どもが急に天に召されるという世の不条理に、やり場のない気持ちを抱え、
この世で生きるということの意味を改めて考えさせられる日々でした。

お母さんとは、出産を控えたアドベントの季節の夕方、
2回ほど園で一緒にみつろうろうそくを作りました。
お母さんの涙の中に笑顔が少し見えた時、私たちも少しホッとしました。
お空の上から、Tちゃんが見守ってくれているように感じました。

本当はこのことはしばらく自分の中にしまっておくつもりでした。
しかし、つい数日前にこんなことがありました。

東京での大人向けのアドベントセレモニーに
以前園に見学にいらした方が、ご自身のお母様を誘われてご参加になりました。
彼女は元保育士で、仙台に住んでいた時に初めて宿したお子さんを死産されました。
そのショックの中で、偶然にも私たちの園をSNSで見かけて、
「行ってみよう」と思ったのだそうです。
お腹の赤ちゃんを亡くした悲しみの中で「幼稚園に行ってみよう」
と発想することはあまりあることではないかもしれません。
もしかしたら、お腹にいた赤ちゃんが、彼女を園まで連れてきてくれたのかもしれません。
初めてお会いする彼女のお話を聞き、保育にも入られて、
その後次のお子さんを無事にご出産されました。
その彼女が東京に引っ越し、ご近所に住むお母さんを連れていらしてくださったのです。

りんごろうそくを灯した後のシェアリングで、
お母さんも彼女も泣いてらっしゃいました。
お母さんは「人前で泣いたりするような人間ではないのですけれど」とおっしゃりながら、
たくさん涙を流されつつ、娘さんと一緒に笑ってらっしゃいました。
死産という悲しみに打ちひしがれていた時に、
娘を支えるために仙台に来られていたお母さん。
そのころを振り返られて、でもこうした出会いがあるのは幸せですと
涙の中に光る笑顔がマリアさまのようなお顔でした。

年の瀬に、光に還った子どもたちの存在を、クリスマスの光とともに非常に近しく感じています。
私たちは、通常目に見える世界の中だけでがんばって生きているように感じますが、
実は目に見える世界と目に見えない世界は、いつも繋がっているのかもしれません。

今年も、かけがえのない我が子を失われて深い悲しみの中にいらっしゃる
お母さん、お父さんが世界中にどんなにいらっしゃることでしょう。
どうかそうした悲しみの中にいる方々にこそ、
冬至を過ぎた光の再生の力が、佳き支えとなってくれますように。
私たちも全員がいつか、光に還る時がやってきます。
そのことをいつも忘れずに生きていくことができますように。

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今年も一年間、連載をお読みくださりありがとうございました。
来年も続けていこうと思います。

良い年をお迎えください。感謝を込めて。

(この連載は毎月新月・満月の更新です。次回は1/11満月の更新です)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催 
new! 19年8月「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)出版 

Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園
Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)