小さな声が聞こえるところ40「子どもたちの”安心”を育むために」

新型肺炎の世界的流行に伴い、今月に入って世間が一層騒がしくなってきました。
学校が一斉休校になったり、
様々なイベントや集いがキャンセルになったりと、
初めは対岸の火事のように見ていたことも、
だんだんと身の回りの暮らしに影響してくることにより
事の重大さを実感されている方も多いと思います。

「人類の歴史は疫病(感染症)との戦いの歴史である」という言葉が、
改めてずしんと響きます。
私たちは、地球で人類の歩みの旅を続けている最中であり、
決して到達点で安穏と生きているわけではないことを改めて思います。

さて、こんな状況で私たちは否応なく不安を抱えてしまいがちですね。
先のトイレットペーパーの買い占め騒動も、何も日本に限ったことではなく、
オーストラリアなどでも大規模な買い占めパニックが起きていました。
どんなに「買い占めなくても大丈夫!」と言われても、
右も左も隣人が買い込んでいると、自分も買わなければと焦ってしまうのが、
人間の陥りやすい心理なのでしょう。
そこには「ウイルス」という目に見えない不安が存在しています。
収束の見えない不安、そこからもたらされる経済危機など、
不安はどんどん広がっていきます。

この不安感、特に東日本に住む私たちは、
ちょうど9年前の3月に起きた東日本大震災と原発事故を思い出さずにはいられません。
あの時も衝撃的な被災規模の現実とともに、前代未聞の原発事故が起きて、
途方もない不安のどん底につき落とされました。
「外に出ていいのか?」
「何日くらい避難すれば良いのか?」
「仙台で保育は続けられるのか?」
「お散歩の時に子どもにマスクをさせるべきなのか?」
様々な情報が飛び交う中、それぞれが判断・決断を迫られましたね。
あの時の強い不安感は、私たちの体のどこかにまだ残っていて、
今回のような社会の「非常事態」になると、眠っていた不安感がぐんと起き上がってきます。

ついつい、情報を求めてスマホをスクロールする時間が長くなってしまったり、
見解が分かれて家族と意見を対立させてしまったり。
(本当は、互いに不安から来る心配が先に立ってのことなのですが)

でも、子どもたちにとっては、身近な大人が不安を抱えていることほど不安なことはありません。
自分の身の振りを自分で決める事のできない幼い子どもたちにとって、
大人が用意する環境が子どもたちにとっての「世界」の全てです。
言い換えれば、社会が非常事態であっても、大人が配慮することによって
子どもたちには「なるたけいつも通りの安心した暮らし」を用意してあげることができるのです。

さて、そうは言っても
「大人の不安は拭えないまま、子どもには安心感を与えるってどうすればいいの?」
とお思いになるかもしれません。
このHPでも既にご紹介していますが
日本シュタイナー幼児教育協会からのメッセージがとても参考になります。

この中のメッセージからいくつかを具体的に解説しましょう。
緑字のところが、協会からのメッセージの抜粋です。

* 健全な生活リズムを維持しましょう。
朝起きる時間、食事、夜寝る時間に関しては、いつもの時間で生活していきましょう。


幼稚園の暮らしは、1日の暮らしの流れが美しいリズムのように決まっています。
この流れに沿って暮らすと、大人である教師の体も整いやすくなることを、
私たちは経験的に知っています。
シュタイナー幼稚園の先生は、歳を重ねても若々しくて元気な人が多いと
世界中で言われるのはそのためです。
小学生以上のきょうだいがいるご家庭では学校が休みになった分、
リズムが崩れがちになるかもしれませんが、
こんな時こそ生活のおよその流れを書き出して、家族で共有するのも一つです。

 

* なるべく外出は控えるようにと言われていますが、
子どもたちが一日中屋内で過ごすことは不可能です。

ニュースでは「家でゲームするくらいしかやることない」
と言うコメントも多く見受けられますが、
こんな時こそ外遊びをして体をよく動かし、
気の通りをよくすることは免疫力の増強のためにもとても大切です。
この機会にと様々なデジタル媒体の子ども向け教育番組などが発信されていますが、
子どもが幼ければ幼いほど、
生命力を高めるのはリアルな体験のみである
ことを忘れないようにしましょう。
大人もスマホを長時間見ていると、たとえ風邪であっても神経を疲れさせて、
症状を悪化させるので気をつけてください。

* 1~2時間でも必ず戸外に出て遊ぶ時間を持った方が免疫力を高めます。
その場合、遊具のある公園よりも、出来るだけ何もない野原や小さな林の中などをお勧めします。

「何もない野原や小さな林」なんて近所に無い、と決めつけないでください。
その気になって近所を隈なく探してみると、
まだ自然の気配の残っている場所は都会でも案外あるものです。
私は疲れた時に、木に抱きつくのではなく、
背中を当てて寄りかかりぼんやりしています。
それだけで背中の気がスーッと通ってとても気持ちが良いのです。
もう少し暖かくなったら、地面に裸足で立ってみたり、
川や海など自然の水辺で足を浸してみることも同様の効果があります。
ほんの少しの時間で十分です。
大人がそうした気持ちの良さを知っていることは、とても大切です。

* 室内で過ごす時には折り紙、あやとり、指あみ、機織り、
木片にやすりをかけて製作するなどの手を使う遊びをお勧めします。

「木片にやすり」とは唐突に感じる方もいらっしゃるでしょうか。
園では、子どもも大人も「やすりをかける」作業を良くします。
細かいことを考えずに無心になってできますし、
ザラザラがサラサラへと滑らかになっていく感覚を手で味わえます。
こうした触覚体験が心もとても安心させてくれるのです。
お散歩で拾った枝、海や川に落ちている流木、ホームセンターで売っている一山幾らの
木片でも良いでしょう。
手垢のついた積み木を再びやすりがけしてオイルを塗ると、新品のように生まれ変わりますよ。

* 食事を一緒に作ったり、掃除をしたりして家事に積極的に参加させてあげましょう。
この機会に子ども部屋を片付けようと決めて、不要品を選択して処分したり、
新年度に向けて新しい環境作りをしたりできるでしょう。

子どもにとってお手伝いすることは本来喜びです。
もちろん大人の手間は増えますが、
「やりなさい!」ではなく「一緒にやろう!」と言われたら
大人もうれしくてやる気が出るものですね。

大人が子どもと一緒に取り組む姿勢を見せることがポイントです。
また新年度に向けての準備をすることは、
これからを楽しみにするという「希望」を具体的に感じられるという意味でも非常に重要です。

最後にもう一つ、
この春に卒園や入学を迎える子どもたちにとって、
たとえこのような状況の中でも、
人生の中での大きな喜びの節目であることは変わりありません。
卒業・入学に伴う行事がいつもより縮小されたりする場合があっても
「残念だね」という言葉を不用意に言わないように、
気をつけてあげていただきたいと思います。
大人は「通常だったらあるべき式のありよう」と比較して残念だと感じますが、
子どもにとってはどんなにイレギュラーな形あっても、
初めて経験する喜びの巣立ちであり、始まりなのです。
大人が残念がっていると、子どもも理由なく残念に感じてしまうものなのです。
こんな時だからこそ、互いの喜びを減らし合わないように気をつけながら、
新しい春を迎えたいですね。

(この連載は毎月新月・満月の更新です。次回は3/24新月の更新です)

 


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催 
new! 19年8月「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)出版 

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