小さな声が聞こえるところ43「アフターコロナの世界に」

毎朝、目が覚めると「今日もコロナか」という気持ちがよぎります。
決して目覚めが良くないという意味ではありません。
でも、毎朝新しく向かい合う世界に、今日もたくさんの方々が
差し迫った現場で働いてらっしゃることを思い、
また家族や大事な人が感染され、また亡くなられて、
辛い思いをされている方々が
世界中になんと多くいらっしゃることか、
その重さを感じています。

地震のように突然襲われる災禍とは違い、
気づけば泥沼に足を踏み入れていたかのように「非常事態」になっていたコロナ禍。
「先が見えない」辛さを多くの方々が口にします。
人間は「見通しが立つ」ことそのものが
幸せを感じる大きな条件であるのだということに気づかされます。

一方で、私たちは地球という億万の生命を抱えた「生きた」星に棲み、
ほかの生き物たちと同様に太陽をはじめとした星々の巡り、
潮の満ち引き、雨風嵐といった天候やそれにともなう大地の揺らぎの
影響から逃れられずに生きています。

逃れよう、逃れようと
どんなに科学や技術を発展させても
逃れられないのは、

私たちが生命体そのものであるから

でしょう。
しかも「考える」生命体であるから、逃れられずに苦しむのです。

仏教では、生きることは「一切皆苦」であると言います。
「苦」とは単なる苦しみだけではなく、
生きることは思い通りにならない、という意味が含まれています。
その代表的な四つの苦しみは「四苦八苦」という言葉の語源にもなった
人としてまぬがれられない苦しみ「生老病死」です。

生ー生きる苦しみ
老ー老いる苦しみ
病ー病気の苦しみ
死ー死んでいく苦しみ

釈迦尊が生まれた古代から遠く離れて、
全く違う世界のような現代に生きていても、
人間の抱える苦しみの本質は何も変わっていないのです。

新型コロナウイルスの流行にともない、
「ウイルスとは何なのか」という議論も多くされています。
生物と無生物のあいだに存在するウイルス。
しかし、明らかにこの地球の生命を宿主として存在しているウイルス。
ウイルスもまた、この地球の仲間なのでしょうか。
直感的にこういうことを感じる方々も多いから、
今改めて「風の谷のナウシカ」を観たり読んだりされている方々も
多いのかもしれませんね。

人間はそう簡単に、苦しみから逃れられることはできないのでしょう。
しかしどうして苦しんでいるのか、を考えたり、
それをきっかけにより世界を理解しようとすることは
できるかもしれません。
それは、現代社会が得意とする
自分の外の世界を「分析」したり「批評」したりすることとは真逆の、
自分の内に目を向けていく内的な作業です。

古来、多くの智者たちが、苦しみから逃れるためには
この「内的な作業」をすることが不可欠だと話していました。
外にばかり意識を向けているうちは、苦しみを解決することはできないというのです。
マクロコスモスとミクロコスモス。
大きな問題に直面した時に、
内なる自分自身の世界を捉え直そうとすることも、
なんだか大事なことのような気がしています。

小さな声が聞こえるところー
自分の内なる小さな声にも耳を澄ましていく感性が、
アフターコロナの世界には最も大事なことなのかもしれません。
毎朝目が覚めるたびに、「元の世界に戻る」のではなく
「歩を進める」覚悟をそっと心に響かせています。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は5/7満月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)

Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園
Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)