『オイリュトミー』って 何でしょう?

オイリュトミスト 甲原園子

『オイリュトミー』という言葉は、多くの方にとって聞きなれないものかと思います。これは、ルドルフ・シュタイナーによって創始された『動きの芸術』と言われる活動で、ピアノなどの美しい生演奏に合わせて優雅に体を動かすその姿は、一見ダンスのようにも見えますが、音楽の響きだけでなく、詩の朗読など、言葉の響きにも合わせて動くところは、ダンスとはちょっと違うところです。オイリュトミーは、音楽や言葉の響きを形として表現する“目に見えるうた”であり、“目に見える言葉”とも言われますが、いったいどのような活動なのでしょう。

皆さん、不安を抱えている時など、誰かから「大丈夫、大丈夫!」と励まされ、自分が守られているような心強さを感じたことはありませんか?このように、言葉には不思議な力が宿っています。シュタイナーは、母音や子音など、言葉の響き一つ一つに力や形があると考えました。また同様に、音楽の響きにも人の心を癒すような不思議な力が存在します。オイリュトミーは、その音楽や言葉の響きの力を目に見える形で表すことにより、その響きの中に宿る力を体験しようとする活動です。

オイリュトミーにおいて、音楽の表現、また言葉の力や形などの基本は、大人であっても子どもであっても同じです。違いがあるとすれば、その学び方です。大人にとって、オイリュトミーの世界とは、特殊なものや不思議な体験であると感じることも多いかもしれません。しかし、子ども達にとってオイリュトミーの世界とは、ごく日常の、いつも子ども達がいる世界と何ら変わりがないのだと思います。ですから、大人は解説をしないと納得できない動きも、子どもは、ただ模倣することによって自然に習得することができます。また、子どものオイリュトミーは、3歳になってから始めますが、3歳になる前の子どもは、日常の生活が“オイリュトミーの世界”そのもので、自然にオイリュトミーの動きをしているために、あえてオイリュトミーを行う必要がないのです。

具体的に、子どものオイリュトミーは、メルヘンなどをテキストに、まるで劇遊びのように進行していきます。そしてその際、子ども達は、自分自身がメルヘンの登場人物になって、喜びや悲しみなどの感情を表したり、太陽、雪、植物、動物などになりきって動きます。ただし、オイリュトミーの場合、“演じる”のではなく、登場するものの感情や温かさなどを、実際に“体験する”と言われます。先日も、虹のこども園の子ども達と、ウクライナ民話である『てぶくろ』のオイリュトミーを体験したあと、「きつかった」という感想が子どもの中から聞こえてきた時は、その可愛らしい言葉にクスッと笑ってしまうほどでしたが、そのお子さんはきっと、オイリュトミーの世界で、おじいさんが森の中に落としていったてぶくろの中に、自分自身が入りこみ、あとからあとから動物達が入ってくる、ちょっぴり窮屈な様子を体感したのでしょう。まさに“体験談”だなあと感じました。

 

オイリュトミーは『薬』ではありませんので、何に効くとか、何が治るというものではありませんが、子ども達の成長にとって欠かすことのできないエネルギーとなります。言ってみれば、オイリュトミーは、三度三度食べる健康的な食事と同じ、『心のごはん』なのです。健康的で美味しいお料理が丈夫な体を作るように、オイリュトミーの力で、子ども達の心と体が、ますます健やかに成長しますようにと願いつつ、わずかな時間ではありますが、子どもたちと共にオイリュトミーの時間を楽しんでいます。