社会イニシアティブ世界フォーラム【レポート】

春休み中の3/31~4/2、シュタイナーの人智学運動の本部とも言えるゲーテアヌム精神自由大学の社会科学部門主催の“社会イニシアティブ”世界フォーラムに参加してきました。
会場は、富士山がどーんと鎮座する御殿場の国立青少年交流の家です。

このフォーラムはシュタイナーの人智学をはじめ、スピリチュアルなアプローチから社会問題に取り組む団体や個人を支援するネットワークの構築を目指して始められ、貧困やその他の不公正の問題に取り組む世界各地のメンバーたちが、継続してお互いを助け合うことを目指すネットワークです。

参加者は300人くらい。
ブラジルの方々がとても多く、会場は英語の他にポルトガル語も飛び交っています。
その他、南アフリカやヨーロッパ各国、アジア諸国と様々な国から参加者が集いました。
ボランティアスタッフとして東海大学の学生さんたちがとても気持ちよく常にサポートして下さいました。
今年のテーマは「エンパシー」。
エンパシーとは、他者に対して心が開かれた状態、あるいはそのような能力のことを言います。

ずっとお話を聞きたいと思っていた、ブラジルの貧民街で半世紀に渡りシュタイナー教育も取り入れた生活改善に取り組み、世界的な成功事例として知られる「モンチアズール」の創始者ウテ・クレーマーさん(80歳のお誕生日祝いも!)やそこにボランティアとして入られてエイズ予防、自然分娩・母乳育児の推進、子育て支援、識字活動などをされてきた小貫大輔さんがいらっしゃるということでとても楽しみにやってきました。
↓サプライズのバースデーケーキを前にしたウテさん。とても80歳には見えない若々しさ!

そして、ここに誘ってくれた大切な友人がいます。
宇野朗子さんです。
彼女とは、震災直前の2011年2月に仙台で行なわれた「第2回六ヶ所村ラプソティー東日本サミット」で出会いました。
老朽化している福島第1原発の事故を心配し、廃炉を訴えるイベント「ハイロアクション」を翌月に福島で企画していた彼女と出会ったおよそ2週間後にあの東日本大震災が起きて、彼女の心配の通りに、原発事故が起きてしまったのです。

彼女はその後京都に移住し、お子さんをシュタイナー学校に通わせています。
私たちは事故後の世界を互いに必死に生き延びながら、時々SNSでやりとりしていました。
そんな彼女から年明けに、このフォーラムのことを聞いたのです。
日本で開かれるこのフォーラムで原発事故について取り上げないわけにはいかない、と彼女は考えていたのでした。
そして、一緒にやりましょうと声をかけて下さったのです。
私の事故時の体験とその後の保養活動などの経験をお話することになりました。

「原発事故・核問題を考える」ワークショップには、30名ほどの方々が集まりました。
なんとその中の半分近くが高校生でした。
もしこのワークショップが無かったら(笑)私も出てみたい沢山の魅力的なワークショップが他にも沢山あったのに、その中からこの深刻な問題について共に考えようとしてくれている若い方々が多いことは静かな喜びを与えてくれました。

宇野さんが、帰還困難区域の写真を撮り続けている写真家の中筋純さんを招いて下さり、写真展も同時に行なわれました。新聞で何度か拝見していた写真でした。実際に中筋さんにお会いしてその温かなお人柄に触れることができました。

↓写真は、汚染廃棄物を入れるフレコンバッグの模型を前にお話される中筋さん。

それから、今までもこうしたことに関するお話は何度かさせていただく機会があったのですが、初めて話し始める前にぽろぽろ泣けてきてしまって、あまり人前でそういうことが無いので自分でもびっくりしました。

そこには、基調講演の一つを担当されたフィリピンのニカノール・ベルラス氏(フィリピンの作家、コンサルタント。持続可能開発、新霊性科学、人工知能、社会三層化論、自己制御等のテーマで世界中で講演しており、国連や政府機関、企業の顧問としても活躍。2010年には大統領選に出馬、16年にはフィリピン環境天然資源省事務次官を務める。フィリピンに原発がないのは彼の功績によるところが大きい。)も同席されていました。
また、他にも世界中で苦難の多い問題に勇気と大きな智恵で立ち向かい、まさにイニシアティブを取ってらっしゃる方々が並んで耳を澄まして下さってました。
日本でも、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場予定地で共に植樹をした仲間や、事故現場からほど近い南相馬市から子どもたちと避難されたご家族などがいらっしゃいました。

私はそこに集った皆さんの中に、とても大きな包み込むような愛の力を感じました。
だから、安心して泣けてきてしまったのだと思います。
原発が爆発して、私たちの住む世界が汚染されてしまったことは、直視するにはとても辛すぎるできごとです。
でも、今の時代に生きる大人として、自分自身にも責任があるはずです。
いろんな葛藤の中で生きて来た7年間でした。
私ははじめて、自分の経験を話すことで自分もまたどんなに辛く今も悲しんでいるのかを知ることができました。
みんなの大きな愛と勇気の中で。

ニカノール氏が、翌日の講演の中でAI(人工知能)がもたらす人類の危機について、科学的な所見からかなり詳しく述べて下さいました。
科学はこの千年の間に驚異的な進化を遂げましたが、AIはその百万倍のスピードで考えていくと言います。
人間が2万年かけてたどり着いたことを、1週間で考えられるというのです。
ロシアやアメリカでは、すでに全てがデジタル化されて教師もクラスルームも存在しない学校があると言います。

「私たちはこれから人間の歴史の中で一度も目にしたことの無い暗闇を通るだろう。光を見つけるために。」

エンパシーのとっかりは「勇気をもつこと」だとニカノール氏は話しました。

この燃え落ちようとしている世界の中で、自分の能力、時間、そして情熱を何に使うのか、と。
物質文明はAIの餌になるとニカノール氏は話します。
「わたしたちの意識を甘く見るな」
私たちの意識が物質を生み出していること、人間の思考が物質の土台になっていることをすでに最新の量子力学の科学者たちは理論化しています。
シュタイナーの人智学の世界観を、現代の最新の科学が追いついて理論的に証明してきています。
前代未聞の原発事故が起こり、収束もままならぬままの今を生きている私たち。
しかし、私たちはなお、あきらめてはいけないのです。

「ひとりひとりが ”comfortable zone(居心地よい場所)”から一歩踏み出すこと」

それこそが、燃え落ちる世界をみんなで救い出す勇気ある一歩。

社会イニシアティブフォーラム、それは震災と原発事故から7年という節目に立った自分自身にとって、計り知れない希望と勇気を分けてもらった貴重な出会いでした。
そして、震災・原発事故を経てもいつも希望を捨てることなく子どもたちの前に立つことができたのは、シュタイナーの人智学に触れて来たからこそであると、改めてその感謝を深くしました。
私たちはきっと、「ひとつの人類」に向けて歩み始めなければいけないところまで進化してきたのだと思います。
そこに至る一歩を踏み出すことの勇気をみんなでいただいた3日間でした。ブラジルのカポエイラに挑戦したり、輪になって歌ったり踊ったり、楽しいこと、笑えることも沢山ありました!
毎朝拝みみる富士山の美しかったこと。
少し先の、未来的国際社会にお邪魔したような空気感でもありました。
また参加したいです。
英語もちゃんと話せるようになりたいな!(いつも思う)
またみんなで集えますように。

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)