まつやま助産院さんの冊子「うみねっこ」より

 

うみねっこ17号掲載記事より

愛媛県松山市に昨年引越しされた元親子クラスの保護者さんである青砥奈智さん。
彼女はヨガのインストラクターであり、また松山に引越しされた後は「松山シュタイナー教育を学ぶ母の会」
を立ち上げられて、活動されています。

この度、娘さんを出産された愛媛県松山市にある「まつやま助産院」の助産師さんを中心に発行されている冊子『うみねっこ』の17号に寄稿された記事で、こちらの虹のこども園について書いてくださいました。

かわいい表紙ですね。イラストも素敵。
愛媛は仙台藩祖伊達政宗の初めての子どもが伊予宇和島藩主となって愛媛に渡っているので、どこか仙台ときょうだいのような土地だと感じています。
いつか、訪ねてみたいです。

以下、冊子からの転載です。

~小さな幼稚園との出会い~

こんにちは。青砥奈智と申します。4年前に出産体験を書いて以来、2回目の寄稿です。

私は現在、月に一度「松山シュタイナー教育を学ぶ母の会」という集まりを主催し、数名のお母さん達と共にシュタイナー教育の書籍を読んだり、手仕事をしながら過ごしています。娘を出産した当時、シュタイナーのシュの字も知らなかった私がなぜこのような会を開くようになったのか、そのきっかけとなったある幼稚園のことをお話ししようと思います。

松山で娘を出産したのが2014年5月。その11か月後の2015年4月に夫の転勤で仙台へ引っ越すことになりました。当然仙台に友人などおらず、娘と定期的に通えるところが欲しいなあと思っていたところ、夫が「ツイッターで面白そうな幼稚園を見つけたよ」と教えてくれたのが、東仙台シュタイナー虹の子ども園でした。調べてみると未就園児クラスを開催している様子。早速問い合わせて伺ってみると、そこにあったのは普通の一軒家でした。

家の前の花壇にはお花やハーブが植えられていて、家の横のお庭には、小さな畑と砂遊びをするスペースがあります。その奥にはウッドデッキがあって、子供達が座るのにちょうど良さそうな木の椅子が数脚置いてありました。でもそのいずれもが、幼稚園と聞いて想像するものより随分小さくこじんまりとしているのです。「へぇ~」と思いながらチャイムを押して玄関を入ると、丈の長いスカートに、これまた丈の長い桃色のエプロンをつけた園長先生が出迎えてくださいました。家の中は一風変わっていて、窓は全て薄い絹の布で覆われています。部屋の仕切りとして使われている布も全て絹で、その桃色や黄色の布のおかげで部屋全体がほのかに華やかな印象です。置いてあるおもちゃやお人形も全て、木、綿、絹、木の実といった自然のもの。キャラクター物のおもちゃは無く、部屋の見えるところに時計もありません。絹で覆われた窓からは、光が優しく降り注いでどこか温かく、この家だけ時間がゆっくり流れているようです。お母さんのお腹の中ってこんな感じかな。それが第一印象でした。

面白い幼稚園だなと思い、何となくそのまま月1回の0歳児クラスに通うことにしました。(0歳児クラスは月1回でしたが、翌年の1歳児クラスは月2回通っていました)“光の天使組”と名付けられた0歳児クラスは、午前10時から12時までの2時間。毎回、先生の誘導で母親達がおやつを作り、その後簡単な手仕事をします。子ども達は傍らで遊んでいます。興味があればおやつ作りや手仕事を一緒にしますが、基本は母の仕事として向き合います。「母親が落ち着いた気持ちで自分の手仕事に取り組んでいる時、その気配感じて子どもは安心して遊びだす。」これは親子で幼稚園で過ごす中で、私が気付いたことでした。子どもは周囲に感応する存在です。私自身が呼吸を深くしてどっしり腰をおろし、子どもを見守りながら目の前のことと向き合っていると、その気配を感じて娘も落ち着くらしいのです。ただし、もちろんそうでない時もあり、そんな時は遊び出すまで誘導してあげる必要がありましたが。

その日の手仕事が終われば、おやつの時間。遊んだおもちゃを一緒に片付けて、皆でテーブルを囲んでお祈りの歌を唄ってから、おやつを頂きます。そして最後はお集まりです。先生を中心に子ども達は輪になって座ります。先生の前には小さな丸テーブル。その上にはみつろう蝋燭と蝋燭消し、オイル、アウリスグロッケンという楽器が置かれ、花壇から摘んできたお花が生けられてあります。先生がお歌とともにグロッケンを奏でながら蝋燭に火を灯すとお集まりの始まりです。オイルを手に取り、順番に子ども達の手に数滴ずつ垂らしていきます。それから幾つか手遊び歌をし、お誕生日を迎えた子がいればお祝いをします。全て終わると、先生が終わりを告げるお歌を歌いながら蝋燭消しで火を消します。消えた蝋燭からすーっと煙が立ち上るのを皆で確認したら、さよならの時間。降園の時刻です。

遊びは自分を外へと解放しますが、お集まりは、自分の内側に向き合う時間です。部屋の中に浮かぶ蝋燭の火は、自分の内側に灯る火です。全ての人が持っている内なる光です。大人になっても内なる光を見つめることができますように。闇の中にある時も、自分自身でそこに新たな光を見つけることができますように。この小さな蝋燭の灯りが、内なる光としてどんな時にも子どもたち自身を照らし続けますように。そのような想いが蝋燭には込められています。

子ども達は皆、このお集まりの時間が大好きでした。先生が丸台をセットし始めると、いそいそと座り小さな両手を差し出してスタンバイ。まだ分からないことも多い中で、繰り返されたこの流れは分かる。次はお集まりと分かっているから自信を持って精一杯やります。園での過ごし方はいつも同じ流れです。今日はお天気だから手仕事はやめてお庭で遊ぼう、ということは一度もありませんでした。月に1~2回同じ人達と顔を合わし、行くと必ず母親達はおやつを作り手仕事をする。「次はコレが来るだろうな。ほら、やっぱりきた。」その繰り返しは娘にとって自信となり、園の先生や周囲の大人への信頼につながっていったように思います。とにもかくにも乳幼児期に大切なのは「この世は絶対大丈夫!」という確信です。身近な大人が親切で落ち着いている、自分は見守られている、自分にも次何が起きるか分かっている、繰り返しこの感覚を味わうことで身近な世界への信頼を獲得した子どもはいずれ、自分のタイミングで自ら、より広い世界へ飛び出していくのではないか。当時の私はそんな風に思っていました。そして園で過ごす2時間は、娘の中でその信頼を醸成するのに確かに大きな役割を果たしていったのです。

そうこう書いているうちに紙面が足りなくなってきました…。次回があるならば、幼稚園での手仕事の様子や季節の行事、園の先生のことをご紹介したいなと思います。

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)