小さな声が聞こえるところ50「土をこねて進化してきた」

とうとうこの連載も、50回目を迎えました。
新月・満月の月2回の更新なので、
連載を始めておよそ2年と1ヶ月が経ったわけです。

お月様のリズムに合わせて月に2回と設定したものの、
これがなかなか大変でした。
時に「これは何回まで続けましょうか、、、」と弱気になる私に、
「頑張って続けましょう」といつも涼しい顔で励ましてくれるweb担当のKさん。
そして何よりも「いつも読んでいます!」とメッセージをくださる全国の方々に励まされて
50回目を迎えることができました。本当にありがとうございます。
次は目指せ100回です!

さて、50回目は何を書こうかなと考えていた7月、
毎日は雨続き。
雨の日はカッパを着て雨散歩に出かける私たちですが、
こう毎日だと子どもたちもエネルギーがあり余ってきます。

こんな時に登場するのが、粘土遊びです。
粘土遊びなんて、子どもの遊びとして当たり前すぎて
珍しくもないと思われるかもしれませんね。

園では季節に応じて、蜜ろう粘土、小麦粉粘土など使い分けますが、
夏は体を気持ちよく冷やしてくれる「土粘土」を使います。
まさに、粘土のスタンダード。
陶芸家さんが使用する、良質で純粋な粘土です。

純粋な粘土は、触れると手がスーッと軽くなるように感じます。
まるで手にたまった邪気や電磁波なども吸い取ってくれるかのよう。
子どもたちはひたすらこねたり、撫で回したりしながら
「気持ちいい!気持ちいい!」を連発しています。
子どもは感覚に正直ですね。
「気持ちいい!」が一番最多で出るのは、何と言っても土粘土です。

親子クラスで粘土遊びをすると、子ども以上にお母さんが
その感触に夢中になっていたりします。
予想以上に気持ちよくてびっくりされるみたいです。

幼児にとっての粘土遊びは「感触遊び」。
「ヘラ」のような粘土遊びによくある道具も、あえて渡しません。
道具があると、子どもたちは粘土の塊を「切る」作業ばかりしたがります。
手のひら全体で味わう触覚体験が、おろそかになってしまうのです。
それよりも、手の平でいかにまんまるの球体を作り出すか、
コロコロ細長く伸ばしていって、どれだけながーい蛇さんを作り出せるか、
といった遊びの方が子どもの触覚を育てます。

7歳までの間に、触覚体験を豊かにしておくことはとても大切です。
私たちは「触れる」ことにより、自分と外界の「境界」を知ります。
出生してから子どもたちは世界に「触れる・触れられる」ことを通して、
自分自身の「輪郭」を知り、アイデンティティーを確立していくのです。

そして自分と他者、自分とそれ以外の取り巻く世界の「境界」を知るのです。
この「境界」が弱くなっている子どもが増えています。
お友達が嫌がっているのにグイグイと体を押し付けて
コミュニケーションを取ろうとする子ども、
よそのお家やお店で触ってはいけないであろうものを、
見境なくいじってしまう子ども、
学齢期になって友達との距離感がうまく取れずに
必要以上に遠慮がちになったり、
反対に友達の家でも我が家のように振る舞ってしまう子ども。

これらは全て子ども自身が「境界」をうまく捉えられない、
乳幼児期に触覚体験がうまく育まれずにいるケースかもしれません。

粘土をこねていると、縄文土器をたびたび思い出します。
博物館で見る、いくつかは国宝にもなっている、
現代人の美的感性に優るとも劣らない(いやはるかに優っているような)
アーティスティックな土器たち。
ああ、人類はこの長い進化の歴史の中で、
どんなに長い時間、粘土をこねてきたのだろう、と思います。
生活のためだけにこねていたのではないことは、土器や土偶を見れば明らかです。
それは芸術活動であり、遊びであり、見えざるものとの交信でもあったでしょう。
大人たちが没頭する傍らでまた、
子どもたちもこねて、こねて、こね続けてきたでしょう。
そうして人類は、進化してきました。

人類の歴史は火と、そして土と共にありました。
土をこねていると、自然と心も体もグラウディングして安心した気持ちになります。
コロナ禍の今、子どもだけでなく大人にも良い遊びかもしれません。
人と寄り合うことが難しい今こそ、
焚き火をしたり、陶芸体験をしたり、野山を散策したりと
地水火風の自然界にとっぷりと触れて
自分自身を元気づけることが大切なのかもしれませんね。

良い夏を、お過ごしください。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は8/19新月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)


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