小さな声が聞こえるところ105 「震災や放射能汚染を伝える適齢期を考える」

ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
今日は秋の遠足。お天気にも恵まれて、東北本線に乗った私たち虹のこども園の一行は、多賀城へと向かいます。

お母さんと離れて友達や先生とだけで電車に乗るのが初めての年少さんたちは、期待と少しの緊張で数日前からワクワクが止まりません。
最寄りの東仙台駅から国府多賀城駅までは、ほんの10分弱の乗車時間。
小さな子どもたちには、ちょうど良い移動時間です。

電車に乗り込み、席に落ち着いて少しすると大きな川が見えてきました。
「ほら、これは七北田川だよ」
そう話しとたん、年少の男の子が急に眉間に皺を寄せて、こう言うのです。

「つなみ!津波が川まで、来るんでしょ?
津波が来たら、お家が、流されちゃうんでしょ?」

その通りです。
震災の時、当時園の助手を務めていた先生の自宅はまさにこの川のもう少しだけ先にあり、津波が川を遡上して、浸水被害を受けました。
地震直後に小学生の娘を迎えに飛んで帰った彼女はその後一時連絡が取れなくなり、避難所まで探しに行った記憶などが一気に蘇りました。
彼女は幸いにも無事でしたが、この川の河口ではたくさんの人が亡くなり、家屋が流されています。

でも、あどけない顔を険しくさせて聞いてくる4歳になったばかりの男の子に、まだそんなお話は不要です。
咄嗟に私はこう答えました。
「川の近くにはお家を建てなくなったから、次は大丈夫だよ」

そう答えながら、私の胸は小さく痛みます。
ー次なんて、永遠に来ないでほしい
ーとはいえ、次の宮城県沖地震が30年以内に来る予想は8割越え
ー次の大津波が来たら、どうなってしまうのだろう

そんな不安を子どもにはまだ伝える必要はないから、笑顔で「大丈夫だよ」と答えるのです。
まだ社会に自ら関わることのできない年齢の子どもたちに、社会の抱える問題や危惧される状況だけを伝えるのは、とても酷なことです。
子どもたちはまだ身体的にも、心理的にも「守られるべき」存在なのです。

ただし、いつか子どもたちも、守られるべき存在から、社会に責任を持つ存在へと成長していきます。
その成長の過程で、社会にも広く目を向けていく姿勢を培っていきたいのですが、それは幼児期ではありません。

新聞をひらけば、東北の紙面には今日も放射性物質の検査結果が掲載されています。
宮城県内でも、100ベクレルという、国際基準から見るとかなり高い基準値を、より遥かに上回る放射能汚染されたキノコが採取されています。
野生の鹿や猪からも、10年経っても相変わらず少なくない放射性物質が検出され続けています。
野生のキノコは食べないように気をつけること、野生動物を食するときには放射能汚染の可能性を考えること。
こうしたことも、東北で生きる私たちは、子どもたちの成長段階を見極めながら、次世代にしっかり伝えていかなければなりません。
それは合わせて、原子力発電という現代のエネルギー事情が直面する大きな問題についても伝えていくことに繋がります。
7歳で伝えられること、10歳に伝えられること、14歳に伝えなければならないこと、それぞれ違ってくるでしょう。

気候変動に自然災害、そして社会情勢もまた困難の多い時代です。
こうした時代において希望を失わずに、生き抜く根っこの力を携えて、社会に責任感を持って参加できる人間になるために、どんな子ども時代を過ごしていけば良いのか、社会の問題をどんな時期にどんな風に伝えていけば良いのか、改めて考えていかなければならない時代だと思います。

(園長 虹乃美稀子)

次回は11月8日満月の更新です。

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)