小さな声が聞こえるところ107「中学生、職場体験に来る」

 先日、中学生たちの職場体験がありました。
最寄りの中学校は、園の目と鼻の先にありますが、職場体験の依頼を受けたのは初めてです。中学2年生の子を2〜3名ほど、3日間受け入れてほしいとのこと。
コロナ禍も3年目、色々な経験が制限されてきたであろう若い人たちのことを思うと、ここはぜひ受け入れて、虹のこども園の暮らしを味わってもらえたらと思いました。 

やってきたのは、運動部に所属する元気な女子生徒2名。
初日は緊張気味に玄関に入ってきましたが、教室に入るなり「わぁ♡」と声がハートのため息に。ピンクに塗られた壁の教室、子どもたちのおもちゃにしている布や紐や積み木たち、中学生の心にも素敵に映ったみたいです。

 

保育学生の実習ではないので、子どもたちと関わることがすぐメインになるわけではありません。
「働くこと」を経験するために、子どもたちの園での暮らしを支える裏方の仕事をまずいろいろ取り組んでもらいました。

幼稚園というところは、子どもたちのいない時間でしなくてはならない仕事が、山のようにあります。
教材作り、庭仕事、皿洗いや掃除とまずはそうした目につかない裏の仕事を手伝ってもらいました。
それらの一つ一つを熱心に取り組みながら、自分達の子ども時代のことも色々と思い出していたようです。自分が通っていた園ではこうだった、というような話もよくしてくれました。
 
 学校で用意してきたいくつかの質問に答える時間があったのですが、「子どもと関わる時いちばん気をつけてることは何ですか」という質問には、「子どもに自分の感情をぶつけないことかな」と話すと、深く頷くふたり。
ひとりの生徒がかつて通っていた保育園で、ひどく怒る先生がいて、水の入ったコップを手から落としそうになった時に怒鳴られたことの恐怖が体に染み付き、それ以来いまでもコップを持つと思い出してドキドキするのだ、と話していました。大人になる前のこの年齢で、こうしたことを伝えることができてよかったなと思います。
お母さんを迎えての子どものお誕生日会に、心から感動していたり、一緒にごはんを食べて、正座に苦慮しながらも子どもたちの食事を手伝ったり、苦手なものを食べるのを励ましたり。

 子どもたちへの愛情がどんどん膨らんで、2日目には「もう明日で終わりなんて!」「3日は短すぎるって先生に言わないと!」と話していました。最終日の3日目は、子どもたちが帰るたびに「あ〜、またひとり帰っていっちゃう〜」と言いながら、全員の名前を思い出そうと頭を捻っている様子を見ると、こちらも本当に心が温かくなりました。

 若くて優しいお姉さんに、静かにメロメロになっている子どもたちは、毎日折り紙や小さな工作のプレゼントを持参。それをものすごく感動してもらっている中学生たち、「入試のとき持ってく!」「額に入れて飾る!」と話してるのをみて、もう園児も生徒もどちらもかわいくて、こちらもたまりませんでした。
 
 思えば私も、中学生の家庭科の授業で保育所見学に連れていってもらったことがあり、たった1時間弱の時間だったはずですが、とても心に残ったものでした。若い心に、小さな子どもたちの愛しさが染み渡ってくれたなら、こんなにうれしいことはありません。
職場体験、すてきな企画ですね。
 

(園長 虹乃美稀子)

次回は12月8日満月の更新です。

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)