小さな声が聞こえるところ155「花壇物語」

 

 先日、いつもの公園にお散歩に行った帰りに、いつもとは違う道を通って帰りました。その道中、古い住宅の並ぶ通りに「おっ」と思わず立ち止まって見惚れてしまう、素敵な家庭菜園がありました。
小さな家一軒分くらいのお庭に、白菜、大根、にんじん、ネギ、ピーマン、ほうれん草、、、とたくさんの種類が植えられています。どれも立派にツヤツヤと育っているだけでなく、その菜園のデザインというのでしょうか、野菜を植える区分けがとても美しいのです。その区分けの間に、イチゴの苗を集めたプランターが整然と置いてあったりもします。
「なるほど、こんなふうにすればいいのね〜」などと、大人同士で頷きあいつつ、しばらく感心して眺めていました。

さて、その翌日。
思いついたらやってみたい意志力は超一級のAくん、園庭に出ると、空いていたレンガで囲った小さな花壇に、せっせと他の場所から野生化していたイチゴの苗を移植しようとしています。イチゴのみならず、園庭のあちこちに生えている雑草のような植物も、スコップで掘り起こしては、花壇に運んで植えています。

その花壇には別のものを植える予定でしたので、助手の先生がさりげなく「ずいぶん頑張って植えたんだね。でもイチゴは集めすぎても実がならないから、このくらいにしておこうね。」と言いながら、その日はお片付けとなりました。

そして、その翌日は収穫祭。子どもたちが庭で遊ぶ傍らで、私は子どもたちに配ろうと、庭で育てた稲を小さな束にする作業をしていました。

いつもならお友達とわいわいやっているAくん、今日は気配を消すようにして一人遊びに夢中になっている、な、、、、とふと目を上げると、なんとまあ!
今年みんなで汗水たらして作ったレンガの花壇のレンガが一部取り崩され、それが花壇の中に細かい仕切りに使われていました。
そのほかにも、石ころや木の切れ端をどこからか持ってきて、小さな花壇は弁当箱のようにこれまた小さく仕切られて、その中にまたあちこちから持ってきた植物たちが植えられています。

参りました!
おととい、お散歩でみんなで感心してみたあの菜園を、再現してみたのですね。先生たちまでが「こうやって作ればいいんだね」と頷きあっていたのを聞いて、お庭に作ってみようとしたのですね。すごいなあ。

Aくんの意志力と観察力に脱帽でした。
もちろん、花壇はあまりに小さく区切られてしまいましたし、レンガも崩れてしまっているから、そのままにしておくわけにはいかないのですが。

「今度、先生と一緒にもっとよく育つように直してみよう」と言いながら、さて、わたしはAくん以上にこの花壇に情熱を傾けることができるだろうかと、自分に問うてもいるのでした。

素敵な花を、咲かせてみせるぞ、Aくんと一緒に。

(文・虹乃美稀子)

 いつもお読みくださりありがとうございます。
「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は11月16日満月🌕の更新です。

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)