小さな声が聞こえるところ178「熊出没の年に思うこと」

「3匹のくま」は子どもたちも大好きなお話です。
山の中に住む3匹の親子のくまが留守の間にお家に忍び込んだ女の子は、くまたちの椅子を座り比べたり、スープを飲んだり、ベッドの寝心地を味わっているうちに長居してしまい、帰ってきたくまたちに見つかってしまいます。
そして、慌てて窓から飛び出て森の中に逃げていき、話はおしまいです。
この秋、私たちの人里に次々と降りてくるくまたちは、まるで立場が逆転して、お話の中の女の子のようです。

勝手に人間の敷地に入り込み、うちの中まで上がり込む輩も。
お話のように、見つかったらとっとこ山の中に逃げ帰ってくれたらいいのですが。

幼稚園部では、冬以外の季節は月に1回県民の森で過ごす「森のこども園」という行事があります。
私の育った実家があったすぐ裏に続く森で、仙台近隣なのにとても広大な森です。

この秋、この森にもいくつかの熊さん目撃情報がありました。
宮城県では11月末まで熊出没警報発令中で、県民の森でも主催の散策企画は自粛しているとのこと。
年長さんは最後の森で過ごす日なのでとても残念でしたが、安全には代えられず今回は諦めることにしました。

虹のこども園を始めて18年。
原発事故にコロナ禍と苦難を乗り切り、今度は熊。
何か危機が起こるたび、社会全体的に「室内で危険を回避する」方向の提案になってしまいがちなので、のびのび育てたい保育者としては歯痒い気持ちがつのります。

今回の熊出没の状況もまた、子どもたちにとって自然の中に入っていくことが「怖いこと」「危険なこと」との認識が深まり、暮らしと自然がますます遠退いていくことのないよう、大人たちの一層の工夫と努力が必要になってくると思います。

街の中でも、身の回りを丁寧に歩いてみると、小さな自然はたくさんあります。

公園や街路樹が紅葉して色づいた葉っぱやイチョウの実を拾ったり、近所のもてあましている渋柿をもらって干し柿に仕立ててみたり。
そんなにきれいな川でなかったとしても、水辺には鳥や虫も含めて様々な生き物が集まってきます。 

森が心配な時は、仙台のように海が近いところにお住まいなら浜辺の散歩もおすすめです。暖かな格好をして、ビーチクリーンのゴミ拾いも兼ねて、浜辺に打ち上げられたビーチガラスや様々なものを拾い集めてみたり、砂浜に棒で絵を大きく描いてみるのも楽しいものです。

木枯らしに吹かれたり、冷たい空気を思い切り吸い込み、今の季節の温度と湿度を体全体で感じることも、健やかな身体感覚を育てるためにはとても大切なことなのです。

そうして自然の「気」をたくさん吸って、自然からエネルギーをチャージできる元気な生命力を育てていきたいと思います。
明日は森の代わりに、おじいちゃん先生の畑に行くことにしました。
「畑のこども園」行ってきます!

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は11月20日新月🌑の更新です。

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)