小さな声が聞こえるところ3「日常を遊ぶ空想の力」

暑い暑い夏が過ぎました。
そして二学期に入った途端に、長く続く雨、雨、雨。

雨の続くある日、それでも教室の中の子どもたちは元気で、気づくと汗びっしょりになる程遊び込んでいます。
お片づけを終えて、輪になって座ると「暑いー!」と男の子たち。
遊んでいるときは夢中でも、落ち着いてみるとふっと暑さを心苦しく感じ始めるものです。

猛暑の夏はエアコンを頼りにもしますが、そんなときは濡れタオルで体を拭いてやり、乾いた服に着替えさせることで心地よさを味わえるようにしています。

その日はふと思いつき、子どもたちに床に寝転ぶように言いました。
「??」という表情の子どもたち。
そんな時は、私が率先して寝転びます。
教室の床はフローリングです。
寝転ぶと板のうっすらとひんやりした感じが背中から伝わってきます。
「あ〜、冷たくて気持ちがいいな〜」と私が呟くと「ホントだ〜、気持ちいい〜」と子どもたち。
そのまま、海の中のイマジネーションの世界へ。

「やっぱり海の中は気持ちがいいね〜」
「ほら、海に浮かぶとお空の夕焼けが見えるよ(教室の天井はピンクと黄色のまだらに塗ってあり、夕焼け空のようになっています)」
「あ、遠くにクジラが見える! イルカが集まってこっちに来たよ」

すぐにそんな空想についてくる子。
はじめのうちは「そんなの見えないや」とうそぶく子。
「サメもいるね!シャチもきたね!」と空想がどんどん膨らんでいく子。
次第に全員が海の上に浮かびながら、あちこち漂流しているような気持ちになっていきます。

今度は、海の底に潜ることにしました。
海の底で宝貝探しです。
みんなで海の底に静かーに潜っていきました。
私は目配せして、助手さんに奄美大島から送られて来た立派な巻貝や様々な美しい貝を一人一人に配ってもらいます。
「貝の電話よ。耳に当ててごらん。よーく耳を澄ますと、海の音が聞こえるのよ。」
子どもたちはそっと耳に当てていきます。
「ホントだ」
「すごい」
小声で驚いています。
私も耳に当ててみます。
本当に、聞こえるのです。ザーッと遠くに波のような音が。
貝の渦巻きの形状がそんな音を生み出すのでしょうか。
海の中の教室は、しばらく静けさに包まれました。
誰もが貝の音に、全身で耳を澄ましています。

「さあ、そろそろ海から上がりましょうか」
ゆっくり子どもたちが起き上がってくると、
どの子も夢から覚めたような表情。
汗も引いて、すっかり涼しくなりました。
子どもたちも落ち着きを取り戻しました。

そしていつもの、お集まりの時間が心地よく始まります。
空想の力は、人間を自由にしてくれるのです。

(この連載は、毎月新月・満月に更新されます。次回は9/25満月の更新です。)

文・虹乃 美稀子(園長兼クラス担任)
仙台市保育士として7年間勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ
08年「虹のこども園」開園 
仙台、東京、岩手にてシュタイナー講座を通年開催  Facebook|虹乃美稀子
Instagram|mikikonijino
Twitter|@nijinomikiko

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)