小さな声が聞こえるところ103 「子どもサプリに気をつけて〜食育の話6」

 ここひと月ほどで、私のSNSサイトのには「子ども用サプリメント」や「子ども用栄養補助食品」の広告が急増し、なんとも言えないやるせなさを感じています。

その宣伝文句はどれも似たようなものですが、こんな感じです。

「その悩み、鉄分不足かも。イライラや集中力不足は隠れ貧血が原因?」
「子育ての悩みをこの〇〇サプリで解決!」

とか、「今飲まないと伸びない身長、飲ませてあげる親の優しさ」みたいな感じです。

現代医療では、熱が上がったら薬で熱を下げる、頭痛や生理痛がしたら薬で止める、悪いところができたら取り除く、という対症療法に重きがおかれ、どうしてそうした状態になったのか原因を考えたり、自分の力で症状に向かい合って体の声に耳を澄ます、という姿勢が失われてきました。

その結果、子育てにも同じような考えが浸透してきてしまったようです。
いや、そうした流れにつけ込んで、一儲けしようと子育て市場をねらう企業の思惑も大きいのでしょう。
現代では子育てや教育においても、知らず知らずにメディアを通して、企業側から流行り廃りのある価値観を植えつけられています。
どんな人でも最初の子育ては親として初めてのこと、情報に翻弄されるのも仕方ないことなのかもしれません。

しかし、普段から体の調子を崩した時に盲目的に薬に頼ってしまうのと同じように、目の前にいる子どものありのままの姿から目をそらし、向かい合うことを放棄して、安易にサプリメントという「薬」に頼らせ、依存させようとする広告には、保育者として危険を感じています。

最近は「栄養」がとても狭い意味で語られています。
子どもの病気も不調も、一元的に「栄養」で語られることが増えました。

現代の栄養学では、食べ物を「すべて完全に」分解して調べ上げた栄養素に振り分けています。
何歳児の子どもには何カロリー必要で、そのカロリーをタンパク質や炭水化物や脂肪でどうとるのか、ビタミンは不足してないか、というような具合です。
もちろん、私たちの肉体はこの世における「物質」ですから、この肉体を維持する材料として必要な栄養素があります。

しかし、もう一つ大事なことは、私たち人間は自分の「命」を維持するために植物にしろ、動物にしろその「命をいただいている」ということです。

「命」に宿るのは、生命力です。いのちをいのちとして維持し続ける力です。
生命力がないと、意味がありません。
しなびかけた野菜や、冷凍保存していた野菜と、畑で採ったばかりの野菜とでは、その味や風味はもちろんのこと、栄養素も比べるまでもないほどの違いがあります。

生命力のあるものを食べて消化するには、自分自身の生命力が必要です。
病気で弱っているときは、消化力も弱まっているのでおかゆやスープが美味しく感じられます。
ジャンクフードや冷凍食品が食べやすいのは、それらに生命力が失われているので、消化の力を必要とせず、人間が楽できるからです。

消化とは、自分ではない、自分以外の「異物」を取り入れて、自分ではない「命」を自分の一部にしていくことです。
食べ物を自分の力で噛み砕き、胃に運んでドロドロに消化し、それを酵素と混ぜて小腸で吸収していきます。そうして、自分以外のものを自分自身に取り入れていきながら、その食べ物に含まれていた生命力も自分のものにしていきます。

子どもは、自分の体に必要な栄養素を「食べる・消化する」という行為を通して、食べ物の中から自分で取り出していかなければなりません。
そして、消化器官もその消化行為を繰り返すことで、十分に働くことを覚えていきます。
楽をすると、生命力は活性化できないのです。

サプリメントという、機械的に精製された単一の栄養を直接口に放り込んでしまえば、消化器官は「自分で栄養を取り出す」ということをしなくなります。
生命力の弱った子どもは、また様々な症候群を持って大人にSOSを発してくるでしょう。
私たちは、そうした子どもたちに、なおサプリや薬を投与していくことで解決しようとするのでしょうか。

何が子どもたちを真の意味で守るのか、現代に生きる大人は子どもたちが企業利益に搾取されないようによく目を光らせていなくてはなりません。

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)