小さな声が聞こえるところ106 「朝日町のハチ蜜の森へ」

秋が深まり、冬の足音が聞こえ始めたみちのく。
園でもそろそろ、「あなぐら」と呼ばれる床下倉庫から、蜜蝋ろうそく作りの道具を取り出さなくてはいけません。
今年のアドヴェント・セレモニーは27日の日曜日。
クリスマスを待つ四週間を「アドヴェント(待降節)」と呼び、クリスマス直前の日曜日から数えて4週前の日曜日に始まります。

セレモニーで使うりんごろうそくは、子どもたちが蜜蝋を使って手作りしています。
今年は、夏にアシナガバチのお引越しワークショップに参加したご縁で、日本で初めて蜜蝋ろうそく製造に着手された安藤竜二さんハチ蜜の森キャンドルの蜜蝋を求めに、山形県朝日町に出かけてきました。

以前も書きましたが、私は保育士になったばかりの四半世紀以上前に、この安藤さんのワークショップに参加して初めて蜜蝋ろうそく作りを体験し、とても感動しました。
今、私が毎年園で子どもたちとろうそく作りに取り組む原点となっています。

私は初めて朝日町を訪れて、その豊かな自然に心打たれました。
折しも、紅葉の一番美しい季節。
ハチ蜜の森の工房の窓からは、美しい錦のような紅葉が見渡せます。
すぐ後ろには豊かな川が流れています。
朝日連峰は日本で一番自然林が残っている面積が大きいのだそうです。
安藤さんはその里と山の境界を見張る番人のように住んでらっしゃいます。

工房で、蜜蝋そうろく作りをさせていただきました。
園で子どもたちと作るときは、湯せんして溶かしたみつろうにタコ糸を垂らして少しずつ太らせるディップタイプです。

今回は、蜜蝋をそのままお湯に浸けて柔らかくし、自由にこねて作り上げる粘土タイプの作り方を教えていただきました。
まるで蜜蝋粘土で遊ぶように、手の中でこねて丸めて形を作っていきます。
じんわりと手の中が温められ、指先までポカポカしてくると、心も溶けていくようです。

そして、安藤さんが飴細工職人の仕事から着想したという、ハサミで蜜蝋をカットして「松ぼっくり」や「もみの木」を形作る方法も教えてもらいました。

安藤さんが作ると、とても簡単に形作られていくのに、真似してやってみると、これがなかなか難しい。
思ったように形作れず、いつも「比べない」ことを大切にしようと言っているのに、ついつい自分の不器用さにガッカリしてしまいます。
それでも楽しくて、何個も作ってしまいました。
(手前が安藤さんの見本のもみの木ろうそくです!)
手仕事に没頭する時間は、大人になっても大事ですね。

ミツバチは、巣を作るために腹部から蝋(ロウ)を分泌します。
働き蜂は花の蜜を吸うことで、体内で蜜を作ります。
そして、腹部にある蝋線という器官から蝋を分泌し、花粉などを口の中で混ぜ合わせて巣を作るのです。

安藤さんは、養蜂を通して自然環境を守ることの大切さをずっと訴えられています。
ネオニコチノイドなどの農薬が乱用される中で、ミツバチを始めとした多くの生き物たちが、自然界から姿を消しかけていますが、都会に暮らしているとそうしたことにも気づきにくいものです。
蜜蝋を捏ねながら、人も自然も健やかにあるにはどうしたら良いかというたくさん伺うことができました。
そして、朝日町の豊かな自然とおいしい空気もたくさん満喫してきました。

旅はやはり大切ですね。
会いたい人に出かけていき、その土地の空気を肌で感じること。
旅をすることで私たちは、日常の自分を新陳代謝し、新しい自分に出会っていくのだと感じました。

一歩一歩日が短くなるこの季節に、心の中に温かな灯火を感じるように、蜜蝋の灯りを灯したいと思います。

 

(園長 虹乃美稀子)

次回は11月24日新月の更新です。

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)