小さな声が聞こえるところ133「デジタル・デトックスしよう」

先日、あるライブイベントに出かけました。
夜の時間だったので大人のお客さんばかりの中、幼稚園児の女の子が一人で席に座りタブレットに見入っていました。顔見知りの女の子だったので、どんなものに夢中になっているのかなと背後からのぞいてびっくり。
今の幼児向け?のゲームも、慣れない大人が覗くと目がクラクラするほどのスピードと3Dの臨場感で構成されています。これでは話しかけても、ほとんど応答もないはずです。息をつめて夢中になっています。
大人たちが楽しく過ごしている中、ひとりぼっちでタブレットに向かっている姿は切なくなり、頃合いを見計らいながら少しずつ声をかけて関わりのきっかけを見出し、最終的に「そんなにゲームじいっと見てたら目が悪くなっちゃうよ。目が悪くなって、頭も悪くなっちゃうよ。一緒にライブ見に行こう。知ってる人たちが歌ってるでしょ?」と声をかけると、タブレットを置いて私の手を握り、ステージの前まで来ることができました。一緒に歌に合わせて踊りながら楽しい時間を過ごせて、お節介成功と安心しました。
後日、その子のお母さんからメッセージをいただきました。「目が悪くなるからってさそわれて、一緒に見たライブ最高だった、なんていってました」とのうれしい内容でした。やっていることはお節介おばさんそのものですが、バーチャルな世界よりリアルな世界が最高だったと言われて、胸を撫で下ろしました。

コロナ禍は私たちの意識と社会構造に大きな変化をもたらし、デジタル化を一気に進めました。特に今年はチャットGPTなどの汎用型AIも登場し、私たちは「人間であること」の意味を根底から問われる時代に入っています。
AIからAGI(人工超知能)が生まれて暴走し、人間が人工超知能に支配される可能性も拭えないことは、開発の第一線にいる研究者たちが多く警鐘を鳴らしています。
私たちは、目先の便利さばかりを追いかけているうちに、すでに崖っぷちに立たされているのかもしれません。

デジタルとは何か、大人がよく認識することが避けられない時代にきています。第一にデジタルデバイスは 依存症リスクが大きく、WHOはすでにゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたす症状を正式に「疾病」と定義しています。引きこもりを誘発しやすく、ある研究によると、落ち込み・ストレス・不安といった状態の人がスマホを持たずに外出した結果、95%の人がより平穏で、バランスの取れた気分に改善したと報告しているほど、私たちはいつもスマホなどのデジタルデバイスによって、なんらかの心理的影響を受け続けています。

その上、SNSなどのアプリは、いかに長い時間、そのサービスに滞在させるかを常に研究しています。AI(人工知能)やアルゴリズムの進化により、広告技術も進化し、ステマ広告などが出回るようになると、私たちはより疑心暗鬼となり世界への信頼そのものを失っていきます。

昨年の内閣府調査によれば低年齢層の子供のインターネット利用率は74.3%にものぼります。コロナの影響もあったのでしょうが、幼児(0歳~6歳)は70.4%、小学生(6歳~9歳)は89.1%がインターネットをすでに日々利しています。その多くは動画視聴とゲーム利用のようです。

親御さんにとっては、子どもたちがスクリーンに夢中になっている間に、家事がはかどったり、リラックスできたりするかもしれません。有能な子守代わりに思われることもあるでしょう。
しかし、そうやってデジタルの世界を子守がわりに育った子どもたちは、10年もしないうちにスマホを片時も手放せない、もしくは人間よりも機械との付き合いに重きを置くベースが出来上がってしまいます。
そうなってから親子関係を改め直そうとしても、それは今を楽するよりももっとずっと大変で深刻な状況になることは間違いありません。今もこども病院の小児精神科には、そうしたデジタル依存による問題で学校生活や家庭生活に困難をきたしている子どもたちが、たくさん通院しています。
子どもが幼いほど、前頭葉の発達の障害、それに関連した自律的な思考・制御力の障害、姿勢への影響や目の障害、共感力の低下、言語表現能力の欠落、ソーシャルネットワークの依存や依存症の危険など、デジタルデバイスから被る被害は大変大きいのです。

スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツ、ジェフ・ベソスなどこうしたデジタル開発を率先してきた人たちが我が子は中高生になるまでスマホを持たせなかったというのは今や有名な話となっています。

脳の発達のためにはリアルな体験が欠かせません。見る、聞く、味わう、嗅ぐ、触れる、感じる、重力の感覚、自分が動いている感覚、体を使って過ごすことしか意味が無いのです。
スクリーンは2次元的ですから、平坦で常に変わらない平面の体験です。そして体も感覚も使わない、そして何の努力も疲れも生じさせない体験は、正常な脳の発達を奪っていきます。

人間の健やかな成長、人への信頼を育むには、愛着に基づく繊細なコミュニケーションの積み重ねが大切です。

便利と楽に流されないように、踏ん張る内的な努力が、便利の誘惑に満ちた時代に生きる現代人には欠かせません。
テレビやスクリーンに子守を任せるのをやめましょう。テレビやスクリーンは、決して有能な子守でも乳母でもありません。機械は、人間への愛のひとかけらも持ち合わせていません。
もしも見せる場合には、親も一緒に見て共通の体験としましょう。
子どもたちをスクリーンの前にひとりぼっちにさせることをやめましょう。
子どものそばに居続ける大人の、心からのお願いです。

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は12月27日満月の更新です。
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12/31申し込み〆切、1/31まで視聴可能です。

 

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)