小さな声が聞こえるところ137「成長しようとする力を信頼する」

 あけましておめでとうございます。今日の新月は、旧暦元旦ですね。
いつからか、旧正月の方が体感にしっくりくるようになりました。

春が近づいてくると、今年度の保育の終わりが見えてきます。年長さんは小学校へ、大きな階段を登ります。それと同時に、年少さん、年中さんもそれぞれ進級します。年中さんは、いよいよ憧れの「さくら組」と呼ばれる年長さんになるのを、心の中でとても楽しみにしているようです。

一年の保育の中では、子どもたち一人ひとりにさまざまな「成長の階段を登るストーリー」があります。乳幼児期の成長のスピードは、体においてはもちろん、心(意識)においても、目覚ましいものがあります。よって、日に日に変化していきます。その変化の小さな芽を見逃さないのが、保育の仕事と言えるかもしれません。

年中さんのAちゃんは、しっかり者の女の子。お姉さんもいる2番目なので、物心ついた頃からお姉ちゃんをお手本に、なんでもそつなくこなせるお利口さん。年少さんで入園した時も、ぐずることも泣くこともなく、登園したらさっさと自分でお支度が出来ました。大人の手を借りることがほとんどありません。

しかし、昨年の夏休み明けから、激しい登園しぶりが続きました。
休みがちになりましたし、送迎の駐車場の車から出てこなくなることもありました。
特に、何が嫌というわけではないのです。なんとか登園して遊び始めてしまえば、いつものように過ごせるのですが、そこまでの渋りが大変で親御さんもだいぶ手を焼かれていたようでした。

でも、私はAちゃんのそんな姿が出てきたのを見て、内心「よかったな〜」と思っていました。それまでしっかりものでなんでもお手本のようにできたAちゃんは、「私はしっかり者」という殻もまた、しっかりかぶっていたように感じていたからです。
少しだけいつも、小さいのに気を張っているようなところがあり、それが時々園のような集団の場では、彼女が無心になるのを邪魔しているように感じることもありました。

先生に手伝ってもらわなくても、なんでも自分で頑張ろうとするAちゃんは、いつも健気なくらいに頑張っていました。登園しぶりは、その頑張りを放棄して、殻を割ろうとするAちゃんの成長のように感じました。
気長に見守っていきましょうと親御さんと話しながら、こちらも泣いているAちゃんを抱っこしたり、おんぶしたりと今までにない関わりを持ちました。そうして数ヶ月を過ごしているうちに、だんだんと朝の登園しぶりの時間が短くなっていきました。

そして立春過ぎた先日、とうとうAちゃんは車から降りると、自ら園の玄関に駆けていき、自分から教室に飛び込んで入ってくるようになりました!
Aちゃんの表情は今、ひとかわ向けたように、より彼女の根っこから溢れてくる「自信」に満ちています。

Aちゃんは、この成長の変容の後、毎週のにじみ絵の時間に描く絵に大きな変化が見られるようになりました。左が、登園しぶりを起こす前までの絵です。毎週毎週、同じように色を並べて描くことが続いていました。(1学期は黄色と青のみなので2色づかいになっています)
右は、登園しぶりがなくなってきてからの最近の絵です。筆づかいが自由になり、描き方も変わっていきました。彼女の内面の成長が、絵の表現にも如実に表れています。

子どもの姿は、日々どんどん変わっていきます。それは植物のメタモルフォーゼのようでもあります。ですから、その一場面だけを切り取って解釈しようとするのは難しく、ある程度長い目でその子の成長の変化を感じ取ろうとすることが大切です。

気長に、見守る。
それは人ならば誰しもが持つ「成長」しようとする内的な力を、信頼するところから始まるのかもしれません。

文・虹乃美稀子

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は2月24日満月の更新です。

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)