小さな声が聞こえるところ140「“覆い”からの巣立ち、ゆっくりと」

 春。とうとう、小鳥たちが巣立っていってしまいました。
今年は年長児4名が卒園です。
女の子3名、男の子1名でしたが4人ともとても仲が良く、「さくら組」と呼ばれる年長クラスの由来から「さくら合奏部」と名付けた音楽活動を自主的に始めたり、気の合う4人組でした。

思い返せば、たった3年前に入園した頃は、お友達との関わりがわからずに、目の前のお友達のほっぺをむんにゅとつまんで嫌がられたり、お母さんと離れたくないと大泣き(時に大暴れ)したり、よそのお父さんが教室に入ってきただけで怖がってしまったりしていたのに、いまでは年下の子どもたちの面倒を積極的に見るのはもちろん、気遣いも見通しもしっかり持てるようになった子どもたち。

こうかくと変に大人びているように聞こえるかもしれませんが、しっかり子どもらしい子どもたちです。これは園と一緒に「子どもが子ども時代を、子どもらしくいられる環境を保障しよう」という姿勢をともに大事にしてきてくださった保護者さん方の努力が大きいといえます。

子どもが子ども時代を、子どもらしくいられる環境は、子どもにとってのよき「覆い」であるとも言い換えられます。
過度なデジタル環境から、まだ直接知るべき必要のない世界の痛ましいニュースから、発達にそぐわない知的なアプローチから、健康を害する食事から、時計の針を追うような忙しい暮らしから、、、子どもの生き物としての自然な成長を脅かす様々な影響から子どもを守る「覆い」。
一方で「温かな覆い」もあります。
子どもの呼びかけにしっかり目をみて答えること、自然な微笑みを向けること、生活リズムを整えてあげること、そしてユーモアをまじえて笑いをもたらすこともすべて、大人の良心と慎み深さがもたらす、子どもたちを温かく包み込む覆いです。

保育は、人生という長い旅路において、まだ本格的に目覚める前の夢見の時間に、温かな毛布をかけるような仕事なのかもしれません。「自分らしく」が求められる世の中だけれど、その「自分」の種は小さい頃にしっかり土の中で眠り、力を蓄えておく必要があります。
早々と種を掘り起こして「あなたは何者なのか?」と問うのではなく、十分にあたたかな覆いをかけて、自我の眠りを守る助けが必要なのです。

子どもたちは、少しずつ温かな覆いの毛布から脱け出て新しい世界に飛び立っていきます。その大きな節目が、7歳になる年の学校入学です。
もちろん、毛布から出るタイミングはその子それぞれ。
行きつ戻りつの時間を、長ければ2年ほどかけてしばらく過ごすことになるでしょう。
ゆっくり見守っていきたいですね。

文・虹乃美稀子

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は4月9日新月の更新です。

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)