小さな声が聞こえるところ146「井の中の蛙にならないために」

 先日、新聞に子どもが外遊びをしなくなった、という記事がありました。

とくに幼児は、半数が平日に園以外での外遊びをしておらず、12人に1人は1週間のうち1日も園外の外遊びをしていないそうです。

記事自体は驚くものではなく「やはりそうだろうな」という印象でした。
単純に考えて共働き世帯が増え、比例して保育時間が長時間に渡るようになり、大人もお子どもも家庭にいる時間は極端に減りました。
家に帰ればご飯を食べさせ、お風呂に入れて、寝かしつけるのが精一杯というのが現状でしょう。平日に外で子どもを遊ばせるなどという時間はなかなか取れないのではないでしょうか。

「保育園で外遊びが熱心だから大丈夫」
「幼稚園で体操教室があるから問題ない」
という声も聞こえてきます。
確かに、そうかもしれません。

ただ、保育者としてそのとき浮かんでくるのは、保育園や託児所といった単一の環境の「施設」の中のみで遊ばせられている子どもたちの姿です。

「施設」には、その社会的責任と、安全管理を全うするためにさまざまな制約があります。それはどんなに工夫したところで、集団を管理するためには個へのニーズには対応しきれないところがあるのが現実です。

人間が幼いときほど、ひとりひとりの「個」の呼吸とリズムに大人が寄り添ってあげなければならないのですが、それを非常に難しくしてしまうのが集団生活でもあるのです。

もちろん、保育者たちは(法律が変わって企業が参入するようになってからはビジネス化が進んでおり一概には言えませんが)さまざまな努力と工夫を重ねて、子どもたちに寄り添う保育を考えています。
しかし、園だけでは子どもは健やかに育っていくことはできません。
子育ては、あくまでも家庭との共同作業であり、子育ての主軸は家庭にないと「個」を育てていくことは大変難しいのです。

「個」がしっかり育っていかないことでのつまずきや、生きづらさは進学・成人・就職と成長するにつれて、様々な形で表れてきます。
しかし、そのつまずきを受け止めるのは、かつてその子の一番大事な成長期を共に見守った保育士たちではありません。それはすべて、家庭の親御さんたちが向き合っていくことになるのです。

今、思春期の子どもたちの家庭内暴力やゲーム中毒などの引きこもりに悩む親御さんが増えています。SNSをのぞくと、悲鳴のような親御さんたちの投稿が溢れています。
子どもがそんなふうに崩れていってしまう原因は一筋縄ではないとはいえ、保育者としてはそうした子どもたちがどんなふうに乳幼児期を過ごしてきたのか、一見何の問題もなく過ごしたように大人には思える幼い頃の日々に、なんらかのSOSが出ていたのではないかと察することが少なくありません。

また、単一の環境にばかり身を置かれているのは、まるで養殖の池しか知らない魚のようです。人間の成長には多様な世界を知ることが大切です。

外遊びを毎日しているといっても、管理された施設の中しか知らない子どもたちがなんと増えていることでしょう。だからといって、休日に頑張って遠いところの遊園地や人気スポットに連れていく必要はありません。

子どもが小さいときほど、子どもが歩いていける範囲の、子どもの暮らしの中の範疇にある小さな自然や、お店やご近所さんとの地域交流がとても大切です。そうした経験の積み重ねが「多様性を知る」土台となっていくのです。

とはいえ、大人もスマホとにらめっこしてばかりの時代。
SNSを開いては、自分と同じ価値観や意見ばかりが現れる画面に「いいね!」を押し合い満足している時代は、みんなで「井の中の蛙」化しているのでしょうね。

さて、こんな時代にどうやって本当の「多様性」を身につけていくのか。
まずは大人の意識を変えていくことが大切かもしれません。
自分と違う意見にも落ち着いて耳を傾けられる寛容さを、持つことから。

文・虹乃美稀子

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は7月6日新月の更新です。

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)