小さな声が聞こえるところ168「ありがとうピリカ、サヨナラ分室」

 新学期が始まり、最初の遠足に行ってきました。遠足は、年に3回。
5月の春の遠足と、10月の秋の遠足と、3月の修了・卒業を祝う遠足です。
5月の春の遠足は、ここ何年も郊外の住宅地にある園分室に行っています。分室は、私が育った元実家の一軒屋。築45年ほどになる新興住宅地の建売住宅です。
震災後に両親が私の家の近くに転居し空き家になったところを、当時原発事故後の母子週末保養プロジェクト「ちいたび」を主宰していたことから、その保養所として使い始めたのが始まりです。そこから園の分室としても活用するようになり早12年が過ぎました。
ここでは、幼稚園部の遠足や餅つき会、夏季保育といった行事に加えて、赤ちゃん親子・幼児水彩・小学生クラスなどの会場となったり、お泊まり会をしたり。またある時期は、保護者のお母さん方主催の泊まりがけ勉強会なども行われていました。(勉強会後のカンパイタイムもどうやら楽しそうでした。)
たくさんの時間を過ごしてきたので、育った実家としての思い出と共に、虹のこども園の仲間たちとの思い出がたくさん詰まった場所です。

 

しかし、この分室ともいよいよお別れの時が近づいているようです。所有者である両親も高齢となり、持ち家の処分をすることにして売却に出されることになりました。早くそうしたかったであろうに、今まで貸し続けてくれたことに感謝です。

この5月の春の遠足は、最後の分室遠足となるかと思うと感慨深い遠足でした。なんということはない昭和の一軒家ですが、それが令和の子どもたち、特に集合住宅住まいの子どもたちには新鮮なようで、子どもたちはここで遊ぶのが大好きでした。
家中使ってかくれんぼをして遊んだり、色々な部屋から庭へと思うままに出入りしてみたり、みんなでお風呂に入ってみたり。昭和の家は、今の家よりも全体的に部屋の間取りも広めなので、子どもたちにとっては気持ちのびのび、でも「お家」にいる安心感、でとても楽しめたようです。
親戚のお家のように感じて大きくなった子も多いでしょう。

歩いてすぐにある丘の上の大きな公園の自然も素晴らしく、野原の斜面をごろごろ転がって遊んだり、凧揚げしたり、崖登りに挑戦したりと本当にたくさん遊びました。お泊まり会の夏の夜など、公園の大木に無数の蝉が羽化している様子など圧巻でした。

そうやって子どもたちと過ごしていると、半世紀近く前にここで同じように子ども時代を過ごしていた自分にタイムスリップするようで、不思議な気持ちになるのでした。

保育の仕事に従事し、30年。
気づけば、自分の家をシュタイナー幼稚園にするという思いもかけない保育人生を歩んできました。
そうして半世紀を超えた年齢となり、今改めて何かをゼロからやり直すような気持ちになっています。
色々と手放していかなければならないものもあるのでしょう。
その一つが、分室でした。

今まで、みんなのためにありがとう。
愛しいピリカでの時間は、ここに寄ってくださった皆さんと共に創った宝物です。時空を超えた、宝物。

何度でも生まれ変わって、かたちを変えて。
ここを共に創ってくださった方々への感謝と共に。

文・虹乃美稀子

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は6月11日満月🌕の更新です。

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)