園では、教師はほとんど子どもの遊び相手をしていません。
言い換えると、子どもたちは、
大人に相手をしてもらうことをさほど欲求していません。
子どもは、子ども同士で遊ぶのが一番面白いからです。
よく遊べる子どもは、大人の相手を必要としないのです。
では、先生は園で何をしているのでしょう。
自由遊びの間、私たち教師は「園のための仕事」をしています。
それは、給食を作ることだったり、
(シュタイナー園の多くは教室の一角に台所があり、
調理そのものが保育活動にもなっています)、
糸紡ぎや縫い物などの手仕事だったり
草取りなどの庭仕事だったり。
みんなの暮らしを整えるために働く、ということが先生の仕事の基本です。
つまり、幼児教育の基本は理想的な家庭の暮らしの再現であり、
教師はその母親役(時に父親役)を務めているのです。
理想的な家庭の暮らし、
それはつまり
「人間はこの二本の手で暮らしに必要なものを生み出し、営むことができる」
という人間が人間たる所以の基本姿勢です。
こうした姿勢を見せていくことは、自立する力を育む大きな力になります。
幼児には、語ることより、見せていくことの方が数十倍大事なのです。
家庭で、幼児のために理想的な、丁寧な家事仕事を
日々見せる暮らしをするのはなかなか難しいもの。
だからこそ、幼稚園で再現して見せるのです。
幼稚園のような暮らしを園ではできなくても、安心してください。
だからこそ、幼稚園があるのです。
先生の大事な仕事の一つに
「修理すること」があります。
壊れたおもちゃ、
ほうきなどの日常の暮らしの道具、
ほつれたカーテンなどに至るまで、
ちょっとした「修理」が必要になることはしょっちゅうです。
お手入れをしながら、物を大事に使い続けることを覚えることは、
物が過剰に溢れる現代では意識的に伝えていく必要があります。
こうした姿勢が、成長した時に
溢れる物に振り回されずに、必要なものを自分で取捨選択していく力を育むのです。
教師が何かを修理しているのを見ることが、子どもたちは大好きです。
特に園の助手の先生は、器用であるだけでなく
方法のわからないものも、工夫して取り組むガッツがあるので
「先生、すごい!」「先生はなんでも直せる」と
子どもたちはまるで魔法使いを見るような憧れの眼差しです。
子どもたちにとって、大人は単なる遊び相手をされるよりも、
こうした子どもの暮らしそのものを支える、
大人にしかできない仕事ぶりを見ることの方が、
大好きです。
(この連載は毎月新月・満月の更新です。次回は9/13満月の更新です)
文・虹乃 美稀子(園長/担任) 仙台市の保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、 シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ 南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事06年 園の前身となるシュタイナー親子クラス開設 08年 「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園 仙台、東京、岩手にてシュタイナー講座、子育て講座などを通年開催 new! 19年8月「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)出版 Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園 Instagram|@steiner_nijinokodomoen |