小さな声が聞こえるところ55「わるい頭なんてあるのかな」

「頭はずして、直感を大事に」とか、
「考えるんじゃなくて、感じましょう」といった言葉はよく聞かれます。
使い古された感もありますが、それを言っておけば間違いない、
という時代の空気はどの分野にも見受けられるようです。

もちろん、「直感」は子育てにおいてもとても大切です。
「感じとる」ことも人間関係には欠かせないものです。
こうした感覚の土台は実はこども時代に育まれるものですから、
大人になってそれができずに人間関係などで生きづらさを抱えて苦しんでいる方は、
感覚の土台を育み直すことができます。

しかし今はこうした「感じること」ばかり重要視して、
「頭で考えること」が大して意味がないこと、
もしくは「余計なこと」のように軽視してはいませんか?

軽視されがちになった理由の一つには
「頭でぐるぐる同じ考えに囚われてしまい苦しい」
「頭ばっかり使っていて疲れる」という状態の人が、増えているからだと思います。

溺れるような情報化社会の中で、私たちはメディアやネットを通してたくさんの情報という名の「雑音」にさらされています。
本来、自分にとって意味のある情報以外は「雑音」ですから、
そのノイズに晒されて頭は困惑しています。

その上、暮らしがどんどんデジタル化しているので、
体よりも頭を動かすことの方が圧倒的に増えました。
手先、指先で動作を終えることが増えています。
頭と体を使うバランスが崩れてしまっているのです。

それに無意識に辟易している私たちは、「頭」を使いたくなくなっているのですね。
しかし、体は生活の中で存分に使っていないので、感覚は鈍りがちに。

そういう意味では「頭を使わず感覚を研ぎ澄ませよう」と思うのは、自然なことです。
しかし、頭は雑音(雑念)に晒されているだけです。
実は頭は疲れているけれど、
頭本来の力=思考の力は、どんどん使われなくなってきています。

「思考の力」は唯一人間を自由にする力だ、とシュタイナーは話しています。
感覚に依存しているとき、人間は自由ではないのです。

感覚は常に「暑いなあ」「なんかチクチクする」「電話がなった!」「あんなこと言われてムカッときたわ」と常に外界からの刺激に絶え間なく反応し、「感情」を生み出し続けています。

しかし、「思考の力」は、独立しています。

あなたが今、頭の中で「〇〇について考えよう」ということについては、
誰にも侵されません。あなたがどこで何について考えようが、それは自由です。

ところがこの「考える」行為も力が必要です。だから「思考力」というのですね。

人間の発達段階においては、この思考力の基盤を育てるのは、第二次性徴以降、つまり14歳から21歳くらいまでの間です。

思考力の基盤は、「自由にものを考えられる力」です。「自由な人間」の根っこの力ですね。
その時々の感覚や感情に左右されているうちは、その人間は自由ではありません。

影響力の大きい人の言動や、その場の心地よい空気に流されて、自分の思考の力を通さずに影響を受けてしまうことは、自由でないばかりか、危険なことでもあります。

「あの人は頭がいいから、、、」とか「私は本当に頭は悪いんですよ」とかいうことをつい口にしがちですが、「頭がいい」「頭が悪い」なんて本当にあるのだろうか、と思うようになりました。

その多くは、頭を使えているか、使えていないか、ということなのではと思います。

もちろん、計算が得意とか、外国語の習得が早いとか、複雑な理論を瞬時に理解するといった特徴を持っている人はいるでしょう。それはそうでない者にとっては羨ましいことではありますが、しかし、それらは「足が早い」「重いものを持ち上げられる」という体の機能の特徴とさほど変わらないのではないかと思います。

どんな頭でも、「じっくり考えよう」という少しだけ根気のある姿勢、持つように心がけてみませんか。

足が遅くても、自分のペースで歩いたり走ったるすることは楽しめるのと同じように、
拙くても「自分の頭で考える」「苦手なことも理解してみようと頭を使ってみる」ことで、
今まで使われなかった頭の「筋肉」が柔らかくなります。

難しい本を何行かずつでも良いから、少しずつ噛み砕いて理解しようとしてみる。
人に任せていた計算を、自分でもやってみる。
なんども諦めた英語の勉強に再びチャレンジしてみる。

そうするとどんなことが起こるでしょうか?

なんと「直感」が冴えてきます。
しかも、不確かな自分の感覚に揺さぶられない、自分にとって意味のある「直感」に、です。

考えることを自分に訓練させると、
不確かな感覚に頼ってぼやけていた世界が明確になってきて、
その結果、不必要に迷ったり、人の言動に影響されることも少なくなってきます。

頭を使うことは、決して悪いことではありません。

あなたの頭をぐるぐるの思いで悩ませているのは、頭を使いすぎだからではなく、
正しく使わずに衝動的な感覚に支配させているからかもしれないのです。

意志・感情・思考、このどれもがバランスを欠けても私たち人間は生きづらさを抱えます。

この三つを成人するまでに、発達に応じて育てていこうとするのがシュタイナー教育が一番大事にしているところです。

「私なんか頭悪いからー」と言う癖のある小学生の言葉が気になって、
今日はこんなお話を書いてみました。

考えることができるのは、人間だけ。
考えること、大事にしよう。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は10/31満月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)
2020年11月 新著刊行予定(青春出版社)


Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園
Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)