小さな声が聞こえるところ63「自分と世界とのつながり〜食育の話1」

旧暦元旦の新月ですね。あけましておめでとうございます。

今週、宮城県と福島県の生協組合「あいコープ」の本カタログに、拙著「小さなおうちの12ヶ月」と「いちばん大事な『子育ての順番』」の2冊が紹介されています。掲載の推薦をしていただいたのはNPOとうほく食育実践協会さん。
本の内容が「食育」の観点から見て賛同できるとしてご紹介いただきました。

園では、確かに食育に力を入れています。
教室の延長上のスペースの台所で(これは認可施設では認められる配置ではありませんが)、おうちのように先生が給食を作ります。

子どもたちは、「先生が作る」ご飯が大好きです。
栄養士や調理師ではなく、保育者が作るのでごく簡単なメニューです。
例えば味噌汁かスープと、酵素玄米(小豆と一緒に炊いた玄米を保温発酵させたもの。もっちりとしています。)にきんぴらごぼうや切り干し大根といった主菜と青菜のおひたしやサラダといった副菜が1品ずつ。一汁二菜、ですね。それに子どもたちと毎年仕込む梅干しと、子どもたちがすり鉢で摺ったすりゴマが添えられます。

水曜日は特別な日で、パン給食となります。この日の給食作りは私の担当です。きびと野菜のスープと天然酵母パン、野菜スティックをそえた簡単な給食です。

シュタイナーは曜日ごとに影響する惑星の力について言及していますが、そのつながりから水曜日の穀物としてきびを食しています。
スープの作り方はとてもシンプル。刻んだ玉ねぎを良質のオリーブオイルでじっくりと炒め、そこに人参やキャベツ、旬の野菜を同じように刻んで重ね蒸します。火が半分ほど通ったら、水を入れてじゃがいもなど芋類を入れます。煮立ったら、きびを入れて保温鍋に入れます。味付けは塩のみです。子どもたちはこのスープが大好きで、毎回鍋いっぱいに作っても2杯、3杯とお代わりして空っぽになります。私が台所で野菜を切っていると「やった、今日はスープだ!」「お母さんに作り方おしえて!」と言われます。

パンを膨らませる酵母は、園創立時からずっと繋いで使っています。りんごと山芋、人参をすりおろしたものです。毎週月曜日に子どもたちが石臼で麦を挽き、その全粒粉を使って子どもたちがパンをこねます。そうしてできたものが、水曜日のみんなの給食になるのです。パンにはオリーブオイルか、季節によってきな粉を番茶で溶いたきな粉クリームか、庭で取れたラズベリーの自家製ジャムなどを塗ります。これに人参や大根など季節の野菜スティックを添えます。

石臼を挽いたりパンをこねる他にも、野菜を切ったり、お団子やクラッカーといった曜日ごとに決まったおやつを作るのも、子どもたちが行いますが設定されたカリキュラムではありません。これらは全て、登園後の自由遊びの時間に「園の暮らしの一部」として営まれています。手伝いたい子は手伝うし、遊びたい子は遊んでいますし、ちょっとだけ手伝ってすぐに遊び出す子もいれば、何週間もお手伝いばかりをしていたがる子もいます。

大事なことは、暮らしを共に営む園での食生活に子どももいつでも参加できる、その準備を大人がしているということです。イベント的な「調理体験」ではなく、大人が理屈で決めた「より良い食事」みたいなことを子どもに説明したりするのではなく、日々淡々と、暮らしの中の「食」が当たり前に大事なこととして営まれているということです。

玄米菜食が基本ですが、子どもとともに調理する環境ではそれがいちばん安全だからで、肉や魚を食べない方が良いという考えからではありません。また、穀菜食という私たち日本人の食の原点から考えても、シンプルな味で穀物や野菜の本当の美味しさを味わう味覚を育てたいという思いもあります。そのために、調味料は多少高価でも本物の良いものを用い、食材はなるたけ有機無農薬で育てられた生命力の失われていないものを用意しています。これらは「贅沢」なことではありません。シンプルな食事は、食材の単価は高くても、素食で満足するので食事としてのコストは決して高くはないのです。

野菜嫌いの子どもの多くが、園にいる間に野菜を好きになります。特別働きかけることはありません。でも子どもたちは「自分で作った」「自分が手をかけた」食べ物は、一方的に出される食事よりもずっとおいしく感じるようです。子どもたちは自分と世界との具体的なつながりをいつでも求めているからです。

食べること、は自分の外の世界にある「異質のもの」を取り入れて、自分の力で消化し、自分の血肉としていくことです。「いろいろなものをおいしく食べられる」ということは、成長した時に多様なものを受け入れることができる人間性の基盤にもなります。

日本では2005年に食育基本法が制定され、食育を「生きるうえでの基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるべきもの」と位置付けていますが、そういった意味においても、幼児教育に食育は本来欠かせぬ領域であると考えます。

そして幼児期における食育とは、その場限りの体験やワークショップではない、暮らしに根付いた食を柱とする環境がどっしりとそこにあり、子どもがいつでもそれをともに担える環境を用意しておくことであろうと思います。
食育については書ききれないことが色々あるので、また時々書いていこうと思います。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は2/27満月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)