小さな声が聞こえるところ79「おかえりなさい〜卒園児を保育する」

 園ではいつの頃からか、卒園児の一日保育参加をごくたまにですが受け入れています。
きっかけはよく思い出せないけれど、就学を機に遠方に引っ越した卒園生が仙台に帰った時に、実家に寄るように過ごして行ったことが始まりだったかもしれません。

幼稚園部は、異年齢混合の1クラス(今年度は16名)で過ごしていますが、
年少・年中・年長をそれぞれうめ組・もも組・さくら組と呼んでいます。
卒園児が保育に参加するときは「ばら組」さん、と呼んでいます。
薔薇は一輪でも大きな存在感があります。
卒園児を表現するのにふさわしいなと思い、直感でそう呼び始めました。

ばら組として卒園生が保育に参加するのは、ごくたまにのことで特別なゲストです。
卒園生の誰もがやってくるわけではなく、
園に「里帰り」する必要のある子が、やってきます。

前述のように、遠方に引っ越した子どもにとっては、
幼児期を過ごした土地を時々訪ね、自分の体づくりを助けてくれたその土地や人々のエネルギーに触れることは、必要なことであり、大きなサポートになるでしょう。
仙台は転勤族の多い土地柄です。
実家や親戚が仙台に無い方々は、園を実家のように感じられたり、
また園で出会ったお友達のお家で親戚のように過ごされる方々もいます。
そうした子どもにとって、園での1日は「ふるさと」のように感じるようです。

学校環境に馴染めずにいる時に、保育参加する子もいます。
この場合、いわゆる”里心”がつきすぎて、学校が遠のいてしまわないよう、
事前に保護者さんとよく相談してから受け入れます。
子どもによってはよく慣れ親しんだ環境に戻ることで、
自信を取り戻したり、安心したりすることができるようです。

こうした、巣立っていった卒園生を改めて保育に受け入れることについて、
最初は私もその意味や予想されることを色々と考えました。
ひとりの子どもを受け入れれば、必ず他の子どもも受け入れていくことになります。
また、すでに学齢期に達し、学習活動を行なっている子どもたちは意識の変化も大きいので、
まだ「夢の中」の意識で過ごさせたい幼児が、
保育の中で彼らの「目覚めた意識」に触れる可能性もあります。

でも、実際に受け入れてみると「ばら組」さんの多くは1、2年生であることもあり、
古巣の幼稚園に戻ると、幼稚園部の子どもたちと同じ空気感で馴染みながら、
少し大きなお兄さん、お姉さんとして優しく接してくれており、
小さな子どもたちにはかえって良いことばかりです。
年長児たちは、卒園生を通して学校への見通しや期待が育まれ、
また「帰りたい時には幼稚園に帰って来られる」という安心感も生み出しているようです。

現代は、学校も保育の場も、暮らしのあれこれがすっかり管理された施設社会になっているので、
各施設の連携がとても取りにくくなっています。
いわゆる「分断化社会」ですね。
保育園や幼稚園を卒園してしまったら、もう担任の先生にも気軽に会えない、
一緒に長い時間を暮らした友だちたちとも、バラバラになってしまい、
集うことが難しいのが現状では無いでしょうか。
私も、以前勤めていた公立保育所では、
卒園生を保育に迎えるなどということはとてもできないことでした。

でも、人間は生き物です。
本当は成長していく中で「行きつ戻りつ」しながら、
育まれていくものは大きいのではないでしょうか。
無認可の私塾という自由度があるからこそ、できることなのかもしれませんが、
「管理しやすさ」が優先される社会の中で、
もっと「個の育ち」に寄り添い、長い目で成長を見守る場が
増えていってくれることを願わずにはいられません。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は10/20満月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。

2008年「東仙台シュタイナー虹のこども園」を開園。幼稚園部を中心に、未就園児親子クラスから小学生クラスまで、12年間にわたる子どもの成長を見守る草の根の教育機関として運営。
東京をはじめ、全国各地でシュタイナー講座・子育て講座を開催。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)