小さな声が聞こえるところ80「焚き火のススメ」

♪さざんか さざんか 咲いた道
焚き火だ 焚き火だ
落ち葉焚き 、、、、

子どもの頃よく歌った童謡のような、庭先で落ち葉焚きをする光景は、
めったに見られなくなりました。

私は、火を焚いて遊ぶのが好きです。
かつて水道やガス、電気といったライフラインの何もない山小屋暮らしをしていた若い頃、
火を焚くことは、料理をするにしても、風呂を沸かすにしても、
欠かせないものであることはもちろん、夜の山で焚き火をすることは何よりもの娯楽でした。

火と対峙していると、誰しも無言になります。
炎の織りなす一瞬たりととどまらないその造形の美しさは、無心になります。
人間は、太古の昔より火を囲んで生きてきました。
その記憶は今、どれだけ現代人である私たちに息づいているのでしょうか。

先日の秋の遠足では、電車に乗って毎年恒例の東北歴史博物館の
古民家「今野家住宅」へ行ってきました。
石巻の北上町橋浦で江戸時代に「肝入(きもいり)」だった今野家の住宅を移築したものです。
ここでは、毎日ボランティアの方々が囲炉裏に火を入れてくださって見学者を迎えてくれます。
こんな風に囲炉裏が生きて使われている公共施設はそう多くなないかもしれません。

囲炉裏に火があると、呼ばれなくても自然と集まり、神妙に炎を見つめる子どもたち。
しばらく静けさが訪れ、薪の燃える音に耳を澄ましています。
 
じっと動かない子どもたちに、ボランティアのおじさんが「いいものを見せてあげよう」と、
庭から生の厚手の葉っぱを一枚持ってきて「花火だよ」と言いながら、火に投げ入れました。 

パチパチッ、パチパチッ、、、

葉っぱは、大きめの音と火の粉を立てて一気に燃えます。
「いい匂いだね」「音が、しなくなった」

目は炎を見つめたまま、耳をすます子どもたち。

毎日、朝も帰りもろうそくに火を灯すお集まりの時間を持っているので、
火を囲むと、自然とひとりひとりの中に静けさが訪れます。

頭を育てるのではなく、身体と感覚器官を発育させている幼児期に染みわたらせたい感覚です。

こうした内的な静けさの感覚を、地水火風の自然と向き合い育むことで、
私たち人間は成長した時に、自分の心の声に耳を澄ます力、
他者の思いを察知したり共感したりする力を育んでいるのです。
芋煮会や焚き火での焼き芋など、野外で火を焚いて美味しいものを食べるのに
ふさわしい季節となりました。
河原で、浜辺でー 小さな焚き火、楽しんでみませんか。 

 

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は11/5新月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)