小さな声が聞こえるところ81「プレ幼稚園クラスの楽しさのわけは」

 虹のこども園は、中心となる本科幼稚園部の他に、
予科と呼ばれる未就園児親子クラスが年齢ごとにあります。
2歳児クラスは「プレ幼稚園クラス おやがめこがめ」と呼ばれています。
月2回金曜日の午前中を保護者さんと一緒に過ごす、2時間半ほどのクラスです。
幼稚園部の午前中のプログラムに添いながら、
シュタイナー幼稚園の保育内容を一年を通して親子で体験していく内容で、
お父さんの参加も可能です。
子どもたちの自由遊びのあいだ、大人は傍らで1年をかけて、
羊毛を梳き、糸に紡ぐ仕事をのんびりと進めています。 

金曜日の朝、9時を過ぎると親子さんが集いはじめます。
幼稚園部に倣って、私たち教師はお玄関で子どもたちを迎えることをしません。
それぞれの仕事をしながら、部屋に入ってくる子どもを待ちます。
ワクワクドキドキの気持ちで園にやってくる子どもたちが、扉を開けたときに、
その子の
呼吸のリズムで、園の中に入り、空気を感じ、自分をなじませていくことができるように。
また、玄関先で大人同士が顔をあわせると、
ついつい大人の会話が始まってしまうのでそれに配慮している、ということもあります。
入室した子から自由遊び。
アシスタントの先生と一緒に、その子のペースで遊びに導かれていきます。
ここは、幼稚園部の子どもへの関わりとは違うところです。
2歳児には、遊びへの大人の手助けが必要なことがよくあります。 

おやつ係の保護者さんは、台所でおやつを作りはじめます。
それ以外の方達は、輪になって糸紡ぎを。
どなたも初心者ばかりですが、糸をクルクルと回して紡ぐ時間は、
なんとストレス解消になり、リラックスすることだろう!と
みなさんよく手仕事の癒しの力に感動されいています。

輪になっての手仕事はおしゃべりも楽しいものですが、
ここは「プレ幼稚園」クラスですから、主役はあくまで子ども。

大人もそのことをわきまえて、子どもの世界を壊さぬように、おしゃべりが盛り上がったり、
声が大きくなったりしないよう、静けさの空気を大切にすることを共有してもらっています。
 

お片づけをしたら「ライゲン」と呼ばれる歌リズム遊びや、
わらべうた遊びなどを楽しみます。

そのあとおやつを食べて、お庭へ。
そう、大好きなお庭遊びです!
砂場に座り込んで遊ぶ子、草取りするお母さんに一緒についてまわって虫を眺める子、
庭になっているラズベリーやミニトマトなど食べられるものに目が無い子と様々です。

そのあとは、みんなで絵本を見て、お帰りのおあつまり。
ろうそくを灯し、手によい香りのオイルをつけてもらって静かな時間を持ちます。
最後に一人ずつ「さよならあんころもち キュッキュッ」と手を握ってハグし、さようならです。

このクラスは、子どもたちはもちろんのこと、
参加する保護者さん方にもとても楽しんでもらっています。

それはきっと、シュタイナー園のように子どもに居心地が良いところは
大人にも良いということだけではなく、
「居心地が良い環境はみんなで作り出すことができる」ということの体験を
重ねていくことのできる場所だからじゃないかなと最近感じています。

それは世界への責任、ということでもあります。
世界は自分たち自身が生み出しているものであり、
そこには自分自身の意識も常に反映されているのですから、世界への責任を持つことが、
世界への信頼感につながります。
そして、それこそが幼い子どもたちに伝えたいものでもあります。

逆を言えば、大人である私たちは、世界を自分から切り離した外側に存在するものとして、
ただ享受したり、消費したり、批判したり、嘆いたりばかりしないよう気をつけなくてはいけません。

馴れ合いではなく、惰性ではなく、本当の意味で目覚めた「居心地の良い」環境を作るためには、
みんなで意識的にその環境作りに参加していくことが大事です。
それは大げさなことではなくて、気をつけたいいくつかの身の慎みがあることです。
そしてそうした大人の慎み深さが、その人の中に自然体に立ち表れているとき、
そばにいる子どもたちはとても、幸せなのだろうと思います。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は11/19満月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)