「おはよう、おはよう、おはよう、、、」
毎朝のおあつまりは、丸くなって座った子どもたちが広げる両手に、良い香りのするオイルを垂らしていくところから始まります。
黄味がかって白い、トロッとしたこのオイルの主要な成分は、「泥炭ピート」です。
泥炭とは日本ではあまり聞きなれませんが、ヨーロッパでは過敏症や気候過敏症、情緒不安、リウマチ、関節炎、乾燥肌など様々な症状を緩和すると昔から重宝されていたそうです。
泥炭ピートとは、朽ちてゆく過程の様々な植物が、酸素を含まない水が豊富にあるところ(北半球のスコットランド、アイルランド、北欧の国々が位置するスカンジナビア半島など)に長い時間をかけて蓄積してできたものです。
酸性度が強く、空気を含まない泥炭地では、太古の遺品が何千年も原型を留めたまま状態良く保存されていることが多く、考古学調査においても貴重な成果を挙げることを助けています。
泥炭繊維のヒーリング効果は一般的によく知られ、これらを織り交ぜた帽子やジャケット、寝具などが商品化されています。
シュタイナーは、この泥炭繊維(ピートモス)で作った服を着ると、外界からくる様々なダメージを緩和することができる、と考えていたそうです。
「外界からくるダメージ」とはどんなものでしょう。
例えば、放射線や急な気圧の低下なども挙げられます。
現代ではよりいっそう気候過敏症、化学物質過敏症などの症状を訴える方が増えています。
そういった方々は、他の人々よりも皮膚が一枚薄くむかれているかのように敏感なので、多数の人が平気そうに感じる状況でも、いち早くそのダメージを受けとってしまうのかもしれません。
また平気そうに見える人たちでも、スマホやスクリーンを見つめている時間が増えるほど、身体がぐったりし、気分が萎えるような、あの虚しい気分になることはよくあることです。
そうしたダメージから保護してくれる働きをするのがこの泥炭ピートを含んだオイルで、私たちは「ソーラムオイル」と呼んでいます。
このオイルをお集まりの時間に手に塗り、「ニャーゴォ、ニャーゴォ、仔猫ちゃん・・・」などと手遊びなどしながら自分の手や顔、首などをマッサージする小さな時間は多くのシュタイナー園で行われている風景かもしれませんが、子どもたちが(大人も)とても楽しみにしている静かで暖かな毎日のひとときです。
この時間にソーラムオイルを使うようになったのは、今から11年前の春に起こった大震災での福島第一原発事故により、少なからずも放射能に汚染された土地で保育を継続することになったからです。
日本中から、多くのご支援とお心寄せをいただきました。
その一つに、このソーラムオイルがありました。
確か、スコットランドにあるアントロポゾフィー(シュタイナーの人智学)系の福祉作業所で作られているものだと聞きました。
それもミズゴケから由来する泥炭で作られており、ミズゴケの薬効は傷口を癒す働きがとても大きく、民間の薬として絶大な効能を発揮していたそうです。
傷にミズゴケを当てがい、赤ん坊のゆりかごにミズゴケを1日2回取り替えて入れ、鹿は怪我をすると傷口にミズゴケを擦りつけたそうです。
動物たちは本能で、その効能を感じているのかもしれませんね。
このミズゴケからできた泥炭ピートを含む貴重なソーラムオイルを、震災支援のつながりで出会った京都の漢方医でもある女医さんが、日本で受け取り、東北の私たちに送ってくださったのが、このオイルを保育で使い始めたきっかけです。
それは本当に暖かく感じられるオイルで(みなさんの愛の熱も含まれていたからに違いありません)、私たちはこの本来とても高価なオイルを長い間に渡って支援価格で譲っていただきました。
また別のアントロポゾフィー医療のグループにおいても、これとほぼ同じオイル(ムーアラベンダーオイル)をやはり支援価格で譲っていただくことが何度かありました。
いよいよ震災から10年目を過ぎて、それまで譲っていただいたオイルは底をつき、今年初めて、ドイツに直接注文しました。
送料がとても高いので、思い切って大瓶で2本買いました。
これはまるで虹のこども園の「おまもり」のようなオイルです。
11年目の春も、みんな元気に迎えることができそうです。
たくさんの方々の暖かな思いと、愛のつながりの中で私たちは生かされています。
ありがとうございます。