小さな声が聞こえるところ87「意志の力に働きかける 食育の話4」

 園では給食は月曜、水曜、木曜の週3日あります。
基本的に玄米菜食の給食を教室の一角の台所で作っています。
水曜日は、子どもたちが保育の中で石臼で挽いた麦をこねて作った天然酵母のパンとスープの給食の日です。
 
月曜と木曜は、酵素玄米に味噌汁やスープ、それから野菜を中心としたおかずが2種。
おかずは切り干し大根などの煮物やきんぴらなどの炒め物、それにサラダやおひたしなどが多いです。子どもの好きなおかずはハンバーグにスパゲティ、というのは大人の思い込みだったりして、園の子どもたちはこのシンプルな野菜のおかずが大好きです。

保育中に「今日は何の味噌汁?」と鍋を覗きにくる子、
配膳されたおかずを見て「やった〜!どれも大好きなのばっかりだ!」とガッツポーズをする子。
園の給食への期待に満ち満ちています。

中には入園時に、野菜が嫌いでほとんど食べられない、という子も珍しくありません。
菜食の園に入れて、みんなと楽しく給食を食べられるのか、お母さんは心配されます。
お家で何でも食べられるように、と働きかければ働きかけるほど、頑なに食べない子も。
でも不思議です。
ほぼすべての子どもが、園に入園して数ヶ月経つと、取り立てて偏食の指導などしなくても、野菜のおかずが大好きになっていくのです。

 
日本の伝統的な和食が世界的に見ても栄養バランスのとれた良い食事であることはよく知られていますが、こうしたシンプルな食事ほど、食材の持つ美味しさや生命力が味に大きく作用しています。
ですから新鮮で、農薬や化学肥料を多用していない、生命力のある素材や調味料を使用することは基本的な大事なことです。
しかし、もう一つ幼児の食事において大事なことがあります。
「感情や思考に働きかけるのではなく、意志の力に働きかける」ということです。

意志、とは「行為」に結びつく無意識の領域の力です。
集中してよく噛んで食べること、箸をしっかり持つこと、お皿に手を添えること、
それぞれの食事をよく味わうこと。
こうした「行為」を司るのが「意志の力」です。
この意志の力は、幼児特有の「模倣の学習」によって培われます。
つまり、「おいしい!」と言いながら、集中して食べているお兄さんや、箸を上手に使っているお姉さんを側に見て、落ち着いて姿勢を正して食事をしている大人たちと日々食卓を共にすることにより、培われていくのです。

褒めたり、励ましたりと感情に働きかけたり、
「この野菜はこんな栄養があるよ」と思考に働きかけたりしても、
幼児の意志の力に働きかけることはできないのです。

シュタイナー教育が知的な働きかけをせずに、
生後7年間、およそ歯の生え変わりまでは「体を育てる」意志の領域への働きかけが大事だというのはそういうことです。

難しそうに感じるかもしれませんが、
大人がああだこうだと食べるときに口うるさくいうよりも、
落ち着いて食事をしっかりとしている姿を見せ続けることが基本だと思えば、
案外大人も気が楽になるかもしれません。

子どもたちは成長するに従って、周囲で様々な食べ物を楽しむ友達や大人たちを見ながら、自然と食事を落ち着いて楽しめる子どもになっていくことと思います。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は2/17満月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。

2008年「東仙台シュタイナー虹のこども園」を開園。幼稚園部を中心に、未就園児親子クラスから小学生クラスまで、12年間にわたる子どもの成長を見守る草の根の教育機関として運営。
東京をはじめ、全国各地でシュタイナー講座・子育て講座を開催。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)