小さな声が聞こえるところ94「メダカの幼稚園」

 園で野生メダカを飼い始めて、かれこれ5年ほど。何代かに命を繋いで、今に至っています。
「野生メダカ」といっても、もうこんなに飼育しているのだから「野生」とは言えないかもしれませんが、このメダカのルーツは震災前まで仙台市若林区井土地区に生息していた、貴重な種です。
 
メダカは大きくは日本の北にキタノメダカ、南にミナミメダカと分かれ、仙台の野生メダカはミナミメダカの北限なのだそうです。
2011年の津波で生息地ごと流された後、大学に研究目的で採取されていた同じメダカを市民で繁殖させようと仙台市の八木山動物園で里親募集企画を行い、数匹のメダカを預かってきたのが始まりです。
野生の遺伝子保守が目的なので交雑させないよう、それまで飼っていたメダカとは水槽を別にして育ててきました。
一時は庭に置いた深い水甕で飼っていたので、卵が孵化してもうまく成魚と稚魚の棲み分けができており、放っておいても稚魚はちゃんと育っていました。 

20匹ほどにまで増えていたのですが、ある寒さの厳しい冬に水甕が凍って割れてしまい、多くのメダカが死んでしまいました。
甕底に残っていたわずかな水の中で凍りかけていたメダカを子どもたちと救出し、なんとか蘇生してくれた後は、残ったその貴重な4匹を室内の水槽で飼っていました。 

昨年、また卵を産んでくれたので、成魚に食べられないよう別の容れ物に移して孵化させましたが、うまく育てきれずに気づいた時には稚魚を全滅させてしまいました。
残っていた4匹の成魚も寿命で2匹が死んでしまい、残るは2匹。
この2匹は雄なんだろうか、雌なんだろうか、つがいである確率はどのくらいだろう、、、、ドキドキしながら春を迎えましたが、この連休にかわいい卵を水草の中に発見!
今年こそはと、卵を水鉢に移し、朝な夕なに見守ることにしました。
 

卵は1週間もしないで無事に孵りました。
今、金魚鉢の中には、目をじいっと凝らすと、小さな小さなメダカの赤ちゃんたちが泳いでいるのが見えます。
本当によく目を凝らさないと、その姿を捉えることはできません。
メダカの赤ちゃんは、成魚のような泳ぎ方をせず、ツン、ツン、と泳ぎます。
まるで水泳を習い始めた時の「蹴伸び」を繰り返しているようでとてもかわいいです。
餌は乳鉢でパウダー状にして与えています。
今年は元気に育ってほしい、次世代のメダカたち。
まるで幼稚園の中で、メダカの子どもたちも保育しているような気分です。



(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は5/30新月
の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)