小さな声が聞こえるところ97「 アシナガバチのお引越し見学」

 野山で遊ぶことの多い季節となりました。
園では春から秋まで、毎月県民の森で保育を行う「森のこども園」という日が、
月に一度あります。
とても広い森ですが、よく手入れされていて、アスレチックをするのも、散策をして水辺で遊ぶのも、とても楽しい森です。

しかし自然の中で過ごすのは、色々な「危険」も伴います。
その一つが、クマ、蛇、ハチやアブ、、、といった森に住む生き物たちとの遭遇でしょう。
もうだいぶ前のことですが、森の中でスズメバチの巣を見つけ、そーっと通り過ぎようとしたところで、年少の子どもが不意に大騒ぎしてしまい、最後尾にいた教師が刺されてしまうという事故がありました。

それはとても痛かったそうで、その日のうちに病院に駆け込むことになったのですが、
それ以来、保育中に誰も刺されるようなことがないようにと、よりハチには気をつけるようになっていました。

ところが先日、友人が面白い企画を主催するからと誘ってくれました。
「アシナガバチのおひっこし」というワークショップです。

講師で山形県朝日町に住む安藤竜二さんは、日本で初めて蜜ろうろうそく製造に着手されて、ハチ蜜の森キャンドルの代表をされています。
実は私も保育士になったばかりの四半世紀前に、この安藤さんのワークショップに参加して初めて蜜ろうろうそく作りを体験し、とても感動しました。
今、私が毎年園で子どもたちとろうそく作りに取り組む原点となっています。

さて、その安藤さん、ハチさんたちをこよなく愛されているのですが、数年前よりアシナガバチの養蜂を始められ、その巣箱を無農薬栽培農園に移住させるプロジェクトを遂行されているというのです。

アシナガバチと言えば、スズメバチに次ぐ危険なハチだと認識していたので、それはまたなぜに?という素朴な興味と安藤さんにお会いしたい懐かしさから、このワークショップに参加しました。

会場は、津波の被害の大きかった仙台市荒浜の海岸公園センターハウスです。
ここの屋外デッキにもアシナガバチがあちこちに巣を作っており、スタッフの方々が悩まれていたそうです。

まずはハチさんについての基本的な勉強から。
たくさんのハチがいる中で、人間を襲うことがあるのはたったの3種類。
攻撃しやすい順番に、スズメバチ、ミツバチ、そしてアシナガバチなんだそうです。

意外にもミツバチより比較的に温厚な性質であり、その上畑の野菜につく芋虫をたくさん除去してくれるということがわかってきており、安藤さんはそのことに気づかれてから、ただ単に危険だとして殺虫剤で駆除したり殺してしまわずに、安全に巣を引っ越しさせて、無農薬農園の益虫として活用する方法を紹介されています。

幼虫が孵化する前の5〜6月、そして9〜10月のはアシナガバチは基本的に人を襲うことわなく、巣を引越しさせるにはとても良い時期なのだそうです。
(反対に、子どもたちがどんどん育っている8月初めが一番凶暴になっているそうです。
しかしそれでも、50センチ以下に巣に近づかない限り、向こうから襲ってくることはないといいます。)

外で実際に巣のお引越しの様子を見学しました。
いました、いました。
女王蜂となるお母さんハチが、せっせと虫の肉団子を子どもたちに運んでいます。
お母さんは、基本的に育児に夢中で、人間を襲うことはありません。


このハチを上からそっとビニール袋で捕まえて、袋の端に寄せて縛っておきます。

そして、巣を軸ごとカッターで丁寧に取り除き、蜜ろうろうそく作りの時に芯を挟んで安定させるのと同じ要領で割り箸で挟み、巣箱に元あったような向きで備え付けます。

そして、先ほど捕まえておいたお母さんハチを巣箱の中で放します。
お母さんは捕まえられた時点で「愛しい子どもたちはどこ〜〜???」とパニックになっているので、巣の目の前まで近づけて放してやり、巣の存在に気づかせてあげることがとても大切なのだそうです。

実際に、袋から自由になったお母さん、巣を見つけた時の安心して子どもたちを覗き込む様子は、まるで人間のお母さんのようで、アシナガバチがすっかり怖くなくなってしまいました。

ちなみに、安藤さんは山中にあるおうちの中によくアシナガバチが迷い込んでくるそうですが、出して、出して、と安藤さんにツンツンとしてくるそうです。

そんな時安藤さんは、窓辺に止まっているアシナガバチをそっと紙コップでおさえ、窓と紙コップの間にハガキを一枚差し込むといいます。
そうすると誰でも簡単に捕まえられるので、そのまま外に放してやるそうですが、その時に指先にとまらせ、はちみつを水で少し薄めたものを舐めさせてから逃がしてやるそうです。そうするとハチさんがとても喜ぶのだと話す安藤さんのお顔もとてもうれしそうで、私たちまでハチへの親近感がぐっと増してきます。愛の力は、偉大です。笑

巣をお引越しさせるには、引っ越す場所が必要ですが(300m以内だと、また同じところに戻って巣を作ってしまうそうです)、単に駆除対象の害虫、と決めつけてしまうのは、何も知らない人間の勝手な奢りなんだなあと反省しました。

生態系は多種多様に素晴らしくまわりめぐっており、
どんな生き物も必要があってこの星に存在しているのですものね。

ただし、子育て時期のスズメバチやアシナガバチは、やはり巣の近くにうっかり近づいて刺激を与えてしまうととても危険です。
基本的に、9月以降の山に団体で入らない(巣に気付きにくくなる)、黒は攻撃対象になるので衣服には避けて、白を基調とした服装にする、スズメバチが近づいてきたら、動いているものしか認識できないので、なるたけじっとして動かない(ハチにとって透明人間になる)、そしてカチカチと口を鳴らすような威嚇行動が出てしまったハチに万が一刺されてしまった場合は、すぐに周りの人にハチに刺されたことを伝えて、ポイズンリムーバーなどですぐに毒を除去すること、などが必要だそうです。

こうした基本的な知識を持ちながら、この夏も野山の自然に親しんでいきたいと思います。

安藤さん、貴重なお智慧をシェアしてくださり、ありがとうございました。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は7/14満月の更新です。)

 

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)