小さな声が聞こえるところ42「天体に包まれて生きる」

教室の奥には、用務員さんに増設してもらった小部屋があります。
小さな園ですが、創立から数年経ち園児が増えてきた時代に、
元々は家屋と一体のガレージであったその場所を、
床を張り壁を作ってもらって部屋にしたのです。
少ない予算であれこれ工夫せざるを得なかったために、
かえって不思議な面白い空間になりました。
それまであった教室とガレージの間の大きな腰高窓から出入りすることにしたため、
そこは教室より1段高い小部屋となりました。
まるで小さな舞台のように。

地面から床がだいぶ上がったので、その下は外から出入りできる倉庫としました。
「穴蔵(あなぐら)」と呼ぶようになったその場所はガレージだった広さのまま、
大人はかがんで、子どもは背丈のままに入れる、
収納力抜群の魅惑的な暗闇スペースとなりました。
子どもというのは、薄暗くて狭いスペースに好んで入りたがります。
お母さんのお腹の中を思い出すように。

大震災にはこたえましたので、また大きな地震があることも想定し、
小部屋からも外に出られるよう新たなドアと階段をつけました。
その階段スペースは扉で仕切り、これまた小さな階段部屋ができました。
ここは、保護者さんが送迎の合間にホッと一息つけるコーヒーやお茶のテイクサービスがあり、
チラシなどを置ける情報スペースとしました。
階段の脇には、古い教会が立て壊される時にいただいてきた、
白い木枠のピクチャーウインドウを入れました。

こうしてガレージだったスペースに、入口が3つある個性的な空間が生まれました。
大人の目から見たら、どれも”こびとのお家”のように小さなスペースです。
でも、子どもたちが受け取る空間印象はきっととても広く、奥行きのあるものだと思います。
大きくなって園を訪ねた時に、こんな小さなところに通っていたのかと
びっくりするかもしれません。

新たに生まれた教室は、窓やピアノを覆うシルクの布を、
フクギという葉で草木染めしました。
奄美大島からいただいたその葉っぱは肉厚な緑色をしているのに、
煮出すと鮮やかなレモンイエローに染まります。

壁は麻の茎である「おがら」を一部すき込んで、ごく薄黄色の漆喰で塗りました。
東の窓からシルクのカーテン越しに午前中の光が差し込むと、
小部屋は光で満ちあふれ輝きます。
それは時に息をのむほどの美しさです。
その小部屋は「ひかりの部屋」と名付けました。
教室の一段高いその小部屋で子どもたちが遊んでいる時、
ひかりの天使たちが子どもたちを見守り微笑んでいるように思えます。

ひかりの部屋の角には「季節のテーブル」を設えています。
季節の巡りに呼応するように敷く布の色目を変えながら、
その季節折々の草花や木の実、
手作りのこびとや動物などの人形を飾り
自然界の一部を再現するようなスペースです。

日本の伝統である「床の間」の概念を、子ども向けにアレンジしたようなものでしょうか。
子どもたちは、季節ごとに少しずつ変化していくそのテーブルの上の世界を、
いつも楽しみにしています。

ある日、その季節のテーブルの上を何かがキラリと光りました。
一瞬でしたが、確かに光ったのを私も幾人かの子どもたちも目にしました。

「あれ!先生!今なんかいたよ!」
子どもたちが声をあげました。
わたしは一呼吸置いて、小さく「そうね、今のはきっと妖精さんね」と答えました。
「見えないの?消えたの?」「どこに行ったの?」
「本当は、ひかりの部屋にいつもいるのよ。でも、子どもたちには気づかれないようにしているの。妖精さんたちは、いつも気づかれないようにみんなを見守っているんだよ」
子どもたちは、小さな瞳で季節のテーブルの上をしばらくじっと見ていました。

実は大人の私の思考は、光ったものの謎は簡単に解いていました。
細長い磨りガラス窓から入った光が、その窓辺に飾ってある大きな水晶に反射して
季節のテーブルを照らしたのでしょう。
ちょうど曇り空からお日様が顔を出した頃合いでした。

でもそれは、子どもにとって本当に必要な情報なのでしょうか。
子どもたちがきらめく何かを目にした時に、
彼らの脳裏をよぎったのは光の反射という現象ではなく
「何かがいた!」という「存在感」だったのです。
彼らはお日様が部屋に射し込みきらめいた瞬間に、「何か」の気配を察知したのです。
子どもたちとともにいると、目に見えないものの働きの大きさに感嘆することが多くあります。
それは「成長」という生命現象を通して実感する、
奇跡とも言えるこの生命システムであり、
宇宙と星々の悠久の巡りであり、
子を慈しむ親や周りの人間たちの計り知れない愛情でもあります。
目に見える存在である私たちは、
目に見えないものの働きなくしては存在し得ないことに気づくとき、
生きていることそのものに畏敬の念が膨らみます。

お日様のきらめきが、教室にいる私たちをたまたま立ち止まらせたその一瞬は、
そうしたことを日常の中で改めて感じさせてくれる大切な
「妖精の働き」とも言えるのではないかと思います。

それからしばらく子どもたちは、ふとした時にひかりの部屋の角をじっと見つめて
「妖精さんが、いるんだよね」と自分に確かめるように呟いています。
そのたびに私の耳には、体の内側から惑星の廻る音が聞こえてくるような気がするのです。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は4/23新月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)

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