小さな声が聞こえるところ49「脱線、下手な俳句のお話」

連載50回を前に、ちょっと保育から脱線したことを書こうと思います。
知る人ぞ知る、私の下手な俳句の趣味の話です。

音楽好きな仲間の縁で、ひょんなことから句作を始めてはや15年。
仙台市街のブックカフェ「火星の庭」を拠点にしているので、「火星の庭句会」と名付けていますが、
何せ月に一度仲間で集い、飲み食いするのが目的のような句会なので、
一向に上達の気配もないまま、年月だけを重ねてきました。

それでもやめずにここまで続けてきたのは、ひとえに「先生」が良いからだと思います。
私たちの先生は、過分にも宮城を代表する俳人のひとりであり、
塩釜が生んだ孤高の俳人佐藤鬼房の弟子であった渡辺誠一郎氏。
俳句よりやっぱり音楽が一番好きと放言する私たちを、
よくぞ見捨てずに付き合ってくださっていると思います。

結社に入ろうとするわけでもなく、大会で入賞を狙うわけでもなく、
ただ毎月三つの句を作って提出する句会のルールだけを、
集って飲み食いしたいばかりに何とかかんとか守って、ここまで来たわけです。
こうして書いてみると、「俳句をやっています」とは俳人の方々の前ではとても言えない
堕落した句会です。

ところで、俳句には「季語」が必要です。
たった五・七・五で計17文字という、世界一短いと言われるその詩に
必ず「季語」を入れなければいけないわけですから、非常に難儀します。
はじめの頃は「詩とは自分の心情を詠むもの」という固定観念にとらわれて、
どうして必要を感じない「季語」を無理に取り入れなければならないのかなどと思ったものです。

「季語」はその言葉通り、季節を表す言葉です。
自分の見知った言葉だけでは、発想はすぐに行き詰りますし、
句会で仲間の作った句を選句する時にも、季語がわからないと選びようがないので、
俳句を始めると真っ先に必要なのは「歳時記」になります。

「歳時記」とは俳句の季語を集めて分類・説明した言葉事典のようなものですが、
江戸時代以前は四季の事物や年中行事をまとめた書物のことを指しました。
ですから、「歳時記」をめくっていると、
農耕民族であった私たち日本人の暮らしが細やかに季節を追って説明されていて、
とても面白いのです。
中学時代、授業はよく聞かずに「国語便覧」と「歴史副読本」にはまっていた私にとって、
歳時記は読み物としてたまらなく面白く感じています。

毎月、投句締め切り前夜にいそいそと「歳時記」を繰り出します。
仕事に追われ、一夜漬けで三句作ろうとする自分に、学生時代を思い出します。
それでも「歳時記」の中に一歩入り込むと、そこには豊かで、
繊細で、起伏に富んだこの島国の風土が立ち上がり、とても自由な気持ちになるのです。

「夜濯(夜になってする洗濯のこと。夏は汗まみれの下着を夜に洗っても朝には乾く)」
「牛馬冷やす(農耕に疲れた牛馬を湖沼や川で冷やすこと)」
「糸取(繭を煮て生糸を取ること)」
「瓜番(キュウリやスイカを盗まれないよう畑の番小屋で寝ずの番をすること」、、、
これらは、夏の季語です。
ひと昔前には当たり前にあった、暮らしの中に生きていた言葉たち。
庶民の、貧しくもあったでしょうがしかし力強く、奥行きのある暮らしぶりが、しのばれます。

その感動を句にして表せたら良いのですが、その腕は一向に上がりません。
(努力してないのだから当たり前ですが)
しかし、ほんのわずかなひと時でも、
日常の中に歳時記を手にとってその季節の自然界に想いを致し、
拙くとも自分の言葉で「表現」したいと試みる時間は、
人生においてとても贅沢な時間であると思うようになりました。

 小学生クラスでは近頃私が俳句を嗜むのを知って、
自ら俳句を作って見せてくれる子も出てきました。
自分で俳号をつける子もいます。
俳句の交換日記を始めた子も。
とってもいいなと思います。

 かつて日本人は、上手い下手に関わらずに、
俳句作りを日常の遊びとして楽しむ習慣がありました。
私は子どもたちに句作の指導をするほど上手ではありませんが、
上手でなくてもいい、下手でも「楽しみ続けること」なら伝えられるかなと思うこの頃です。

最後に、一つ宣伝です。
俳句の師である渡辺誠一郎主宰が最近出版した
「俳句旅枕 みちの奥へ」(コールサック社)が、
とってもおすすめです。
俳句の本というよりは、東北を深く深く愛するわが主宰の、
マニアックなみちのくガイド本のような内容です。
読んでいると、みちのく小旅行をしている気持ちになりますよ。
お求めはぜひ、我らが句会の砦、ブックカフェ「火星の庭」にてお願いします。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は8/4満月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)


Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園
Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)