小さな声が聞こえるところ51「食べものをイデオロギーで選ばない」

子育てにおいて、
何をどんな方針で食べさせるかという悩みは多いですね。
今は「口においしい」食べ物がたくさんありますから
(少なくともこの国では)、
食べものが限られていた時代に比べて、
健康を保つために「食べることの指針」を
各々が築かなくてはならず、大変です。
ネットを開くと、あれがいいとかこれが危険とか、
健康法とも相まって、迷うことばかりの現代です。

でも、食べ物は「薬品」ではありません。
その栄養素をどんなに細かに分析しても、
それが図に描いたように、
体の中で単純に働くことはないでしょう。
人間の体こそが、一番複雑な有機体なのです。

何か一つのイデオロギー(観念)で、
子どもの食べるものを制限することは危険です。
お母さんがその時に共感していた方法で、
闇雲に食べたいものを制限したことで、
かえって子どもが無意識下に大きなストレスを抱え、
成長する中でそれが健康や心理面で影を落とすこともあります。

「食べる」とは、どういうことでしょう。

「いのちをいただく」と言いますが、
魚や肉はもちろんのこと、野菜にしろ穀物にしろ、
そこにある「いのち」をわがいのちに変えていくことです。

もう少し細かく言うと、自分の外界にあるものを、
自分の口に入れ、
噛み砕き、
胃や腸で消化し、
自分の血肉としていきます。

つまり食べることとは
「自分とは異なるものを、自分の力で消化し、自分と一体化させる」
という行為であり、
それは「自分とは異質なものも受け入れていく」という、
多様性に対応する素地を育んでいることにもなります。

もちろん、食べ物にはそれぞれの「性質」があり、
そしてそれぞれの食べ物は
人体の様々なレベルへに影響をもたらしています。

シュタイナーも食べ物の特性について、様々に言及しています。
ジャガイモを食べると思考力が弱まるとか、
(イモを主食のように頻繁に食べるヨーロッパを前提にした話です)
人参は逆に思考力を高めるとか。
コーヒーや紅茶についてお勧めはしていませんし、
肉食と菜食ではその人間の進化にどのような影響をもたらすかについても
述べています。

慌てん坊の人は
「じゃあ、ジャガイモは子どもに食べさせない方がいいんですね」とか
「テストの点数が悪いので、人参毎日食べさせます」とか
「シュタイナーの先生はコーヒーなんて飲まないですよね」となりがちです。

私はこの文章をコーヒーの力を借りて書いています。笑
人参は大好きな野菜なので冷蔵庫に欠かしませんが、
ただ好きだから食べています。
コーヒーも紅茶も楽しみますが、
「それがないと落ち着かない」という自分を感じた時は、
ちょっと控えるくらいです。
菜食やマクロビオティックにはまっていた時期もありますが、
今は体の調子が崩れた時以外は、
体が食べたいと感じるものを好きなように食べています。

何を食べるか、を大事にすることよりも、
食べたいと感じるものが、自分の体に良いものであるように、
自分の心身を整えていくことの方がより大事なことだと気付きました。


子どもの「味覚を育てる」ということは、
グルメを育てるわけではなく、
「自分の体にとって必要なものがわかる」感覚を
育てていくことなのです。

白砂糖の入った甘いお菓子を与えたり、
添加物で味を合成した食べものを与えることは、もちろん控えるべきです。

ただ、あまりにストイックになりすぎて、
過度に食べものを「健康のために」抑制してしまうことは、
心理的に大きな陰の力も生んでしまいます。
「食べ物の恨みは恐ろしい」なんて言いますよね。
おじいちゃん、おばあちゃんが時折こっそり食べさせてしまう
お楽しみくらいは、目をつむる余裕があってもよいのかもしれません。

アレルギーで食べられないものが多い子どものケアは、
だからこそ丁寧に行う必要があります。

加えて、自分の「食べたい」ものが、
生産過程を通じて地球や働く人を痛めていないことも、とても大事です。
私たちは、大きなところで、ひとつに繋がっています。

いのちって、おおきくて、ふとくて、強いです。
そして「全体性」に満ちています。
あまり頭でっかちに捉えずに、
なるたけ新鮮で、できたてのもの、
農薬や添加物に汚染されていないものを、
感謝していただく。
そうすると外からのイデオロギーではなく、
自分に必要な食べ物は、自分でわかる感性が
育っていくのではと思います。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は9/2満月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)


Facebook|東仙台シュタイナー虹のこども園
Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)