小さな声が聞こえるところ193「リスク回避しすぎていませんか」

「先生、もっとあっち!あっち!」
「そこのかげにいっぱい黄色くなってるよ〜」
子どもたちの声に押されながら、私は空に向かって高枝切りバサミを思い切り伸ばします。

6月、園庭の枇杷の木は黄色の実をたわわに実らせます。
その昔卒園した子どもたちが遊びで埋めた種が、幸運にも大きく育ったものが4本ほどあり、今ではこの時期の子どもたちのおやつを賄ってくれるほどになりました。

間引きもせず、肥料などの世話もしないのに、お店で売っているものに負けない大きさと濃い味わいがする自慢の枇杷です。

子どもたちは食べるたびに、この枇杷はみんなが生まれる前に虹のこども園にいた子どもたちが種を蒔いたから、今食べられるんだよ、という話を聞くので、自分のお家にもと大事そうに種を持ち帰るのも毎度です。
お家のお庭やベランダで育っている枇杷の話を、時々聞かせてくれたりします。

そのほかにも、お庭にはこの時期ラズベリーもたくさんなります。
これは夏の間、とにかくたくさん実るので摘んでは冷凍し、たまってくるとジャムに煮ます。
園では子どもたちが毎週月曜に石臼を回し、麦を挽き、全粒粉のパンを焼いて、水曜に食べています。
そのパンにラズベリージャムをぬるのが、子どもたちのお気に入りです。

そのほかにも小さな畑でレタスやトマトを育てたり、ほったらかしのイチゴが小さな小さな実をつけたり。
小さな園庭は、小さな美味しいものを収穫する楽しみが、いっぱい詰まっています。

この美味しいものを享受するのは、幼稚園部の子どもたちだけではありません。
月に1回土曜日に他園に通う子どもたちがやってくる専科の水彩クラスがありますが、このクラスの子どもたちもお庭で美味しいものを採ってくるのをとっても楽しみにしています。
庭から帰りたがらない子もしばしばです。

実は現在、園庭で収穫したものなどを生の状態で気軽に食べることは、保育の現場では難しくなってきています。食中毒の危険があるとされるからです。

私は90年代に公務員保育士として働いていましたが、当時はまだ子どもたちと育てたトマトを食べたり、園庭のいちじくの実を採って食べたりということができていました。
しかしO-157の食中毒が流行った時に、保育の現場で自家採取したものを生で食べることは禁じられるようになり、園庭のそうした果実も食べることができなくなってしまいました。

たわわに実った果実を子どもたちに食べてはいけないと伝えなければいけなかったのは、残念で悲しい思い出です。

今は私塾の園として、私の個人の責任の元に、子どもたちにこうした経験をさせることを大事にしています。

誰もが知っている童謡「赤とんぼ」。

🎵山の畑の 桑の実を 小籠に摘んだは まぼろしか

これは二番の歌詞ですが、桑の実(マルベリー)やラズベリーを摘むたびに耳の奥に流れてくるメロディーです。

幼少期に体験する自然界との味覚やその他の感覚を通した親密な体験は、
生涯を通してその子を根っこで支える記憶となってくれるに違いありません。

管理社会が進む中で、子どもたちの生活経験も格段に狭くなってしまっています。

安全第一は保育の鉄則ではありますが、大人の管理リスク回避のために、子どもたちに必要な経験を奪いすぎてしまっていないか、見直す目も必要だと思うこの頃です。

(文・虹乃美稀子)

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は6月30日満月🌕の更新です。   
 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)