小さな声が聞こえるところ131「“ライゲン”の役割〜模倣と遊びの力」

 もう夏前のことになりますが、みやぎ教育文化研究センターの「センターつうしん」に久しぶりに寄稿しました。

コロナ禍を経ての子どもたちの様子を書いてほしいとリクエストいただき、さて何を書こうかと考えました。
今まで経験したことのないパンデミックの中での保育について、語ろうとすればさまざまな切り口が思い浮かびますが、助手の先生が「子どもたちがライゲンをするときの集中力、最近すごいですね」と話していたのが耳に残っており、そこから考えることがありました。

ライゲンについては、この連載でも幾度か触れていますが、季節の流れに沿った歌、詩や、韻を踏んだ言葉に動きをつけたお遊戯のようなものです。 決まった振付を練習するといったものではなく、教師の動きを子どもがそれぞれのやり方で模倣します。

教師は、模倣される対象として季節の流れに応じて、春なら筍ほりの仕草を、秋なら月見団子を作る仕草を、などとさまざまな生活動作を歌や言葉に合わせて踊りながら再現していきます。

ところがコロナ禍を経て、今まで以上の速さで一気に生活のデジタル化が進み、子どもたちに模倣されるべき大人の生活動作がますます薄っぺらく、小さくなってきてしまいました。「スマート化」によって、私たち人間の身体性はどんどん矮小化してきていることを、子どもたちの遊びの中からも感じるのです。

 以下、「センターつうしん」に寄せた拙文の抜粋です。

 コロナ禍における3年間、園ではなるたけ「いつも通り」の保育を心がけてきた。定員15名の小規模であり、保護者同士の意思確認も随時丁寧に重ねていくことができたので、画一的なコロナ対策に従わずとも自分たちで必要だと考える感染対策を行い、保育の自治性を保ちながら健康を守ることができた。

 しかしそれでも、幼児にとっての3年は長き時間であり、どんなに家庭や園が「いつも通り」の暮らしに苦心したとしても、コロナ禍がもたらす影響から免れることはできない。前述のようなデジタル機器の扱いを模倣する遊びは一気に増えた。むろん、それ自体が嘆かわしいことなのではない。そこには子どもの健全な生命力が働いている。ただ、コロナ禍において検討の余地なく一気に進んだ社会のデジタル化により、模倣の対象となる人間の動作や姿勢が急激に「矮小化」しているということは言えるだろう。

 かつて「電話をかける」という仕草は、重いダイヤルを回すこととそれに伴う音、受話器の重量を感じることで表現されていた。それがいつしかプッシュボタンになり、持ち歩ける携帯電話となり、今では薄っぺらい板を撫でるだけの行為になってしまった。「風呂を焚く」という行為も、私が子どもの頃は祖父が豆炭を運んできて火を焚きつけることから始まっていたが、今では台所にある給湯スイッチのボタンを指で押すだけで、しばらくすると機械音声が「オフロガタケマシタ」と話してくる。
料理も然り、掃除も然り(箒とちりとりが、お掃除ロボットに取って代わられている!)、人間の暮らしの中から子どもたちの模倣の欲求を満たす動作が失われている。つまり、「遊び」の健康的な素材が社会から消え去ろうとしているのである。その代わりに与えられるのは、デジタル機器。しかしデジタル機器は、子どもたちを刺激し続けるものではあっても、彼らの中から「主体となって動く」という充実感を与えるものでは決してない。
なぜなら幼児にとっての充実感とは、あくまで「身体」を通してしか得られないものだからである。ここに、大人と子どもではデジタルに向かい合うことの意味が大きく違ってくる明らかな点が見出せる。

 園ではなるたけ子どもたちがデジタルデバイスに触れる機会がないように、家庭生活においても配慮してもらっている。とはいえ、小学校でも1年生からタブレットが配布されているような状況において、いくら家庭と園で気をつけていてもデジタル化の大きな流れの影響からすっかり逃れることは難しい。・・・(以下続く)

いかがでしょうか。
皆さんの暮らしの周りを見渡しても、一昔前と比べて生活スタイルがすっかり変わって、身体を使うことが減ってしまった場面が多いのではないでしょうか。
タッチパネルやセンサースイッチは、私たちの身体から何を奪っていると言えるのでしょうか。
子どもたちの様子は、いつも私たちの社会を鏡のように映し出しています。
子どもたちの遊びの様子や言動をよく観察することによって、私たちの社会が内包している問題やどこに向かっているのかを読み取ることができるのです。

ご興味ある方は是非、こちらのPDF原稿から全文お読みください。
他の先生方の投稿もとても興味深く、共鳴できるものが多いです。

それからおまけ情報ですが、みやぎ教育文化研究センターの高校生公開授業の今年の講師はなんと作家の高橋源一郎氏です!
私は彼のNHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」が好きで、聴き逃し配信でよく聴いていますが、あの多忙を極めてらっしゃると思われる源一郎さんのスケジュールをよく押さえられたなと驚きました。
高校生の方にぜひ、お知らせしてあげてください。

「小さな声が聞こえるところ」は新月・満月の更新です。
次回は11月27日満月の更新です。
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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)