小さな声が聞こえるところ60「いつもどおりの安心した暮らしを」

とうとう年の瀬になりました。
今年はあっという間のような、しかしコロナ、コロナと騒がれ出す前の1、2月ごろは遠い昔に思えるような、不思議な感覚を覚えます。
皆さんにとって、2020年はどんな年だったでしょうか。
色々なお立場でそれぞれの大変さがあったり、
思いがあったりしたと思いますが、
どんな人にもきっと同じなのは今までにない緊張感を、
様々な場面で抱えて過ごした1年であったことではないかと思います。
そして大人たちが経験したことのないそうした緊張を抱えて暮らしている傍らにいた子どもたちもまた、無意識のうちに、色々なことを感じ取っていた日々であろうと思います。

さて、そうした状況の中でしたが、今年もクリスマスのセレモニーは例年通りに行いました。
小さな教室でクラスごとに行うので、園に通う子どもたちだけでも日にちを変えて計8回行います。赤ちゃんクラスから小学生クラスまで、それぞれに行うのです。

赤ちゃんはお母さんに抱っこされながら、
歩けるようになった子どもたちはお母さんと一緒に、渦巻きに入っていきます。
幼稚園部ともなると、暗くなったお部屋のろうそくの明かりだけが灯る渦巻きの中に一人で入っていくことができます。
自分たちで手作りしたみつろうろうそくをりんごにさして、もみの渦巻きを回るセレモニー。
その秘めた意味はあえて言葉では説明せず、感覚体験のみを重視します。

今年は1歳児クラスの子どもたちも、お母さんに見守られながら一人でりんごろうそくを手に、堂々と渦巻きに入っていく姿がとても印象的でした。
まず最初に私が渦巻きに入り、火を灯します。
それから順に子どもたちが一人ずつ続くのですが、他の子どもがやるのをじいっと見ていて、
同じように慎重に、しかし誇らしげな表情で渦の中に入っていきます。
その堂々とした姿はとても1年前、お母さんのおっぱいを求めて大泣きしていた赤ちゃんたちとは思えぬ姿です。1年の成長の大きさを思い知らされます。

1歳児クラスは月に1回しかないクラスです。
大人にとっては、月に1度というのはとても少ないように感じます。
しかし、「いつもの流れ」「いつもの顔ぶれ」「いつもの雰囲気」を大事にした環境で子どもたちを迎えていると、子どもたちはたった月に1度の集いでも、
「いつもと同じ安心した知っている場所」としてその心身に深く刻み込まれ、家庭においても度々ここでの記憶が浮かび上がり、私たち教師の仕草の模倣が出たり、話が出たりするようです。

思いがけずも今までの「当たり前」が「当たり前」でなくなってしまった2020年、
今を生きる子どもたちにとって、「当たり前」で「いつもどおり」を保証してあげることがどんなに大事で、またこの時期の子どもの成長にとってかけがえのない世界への信頼感を培うことになるかを改めて考えさせられました。

新しい年はコロナとともに始まりそうです。早い収束を祈りながら、なるたけ「いつもどおりの安心した暮らし」を子どもたちと過ごしていけるよう、来る年も心がけていきたいと思います。
今年も一年間、連載をお読みくださりありがとうございました。
来年も皆様の健康が守られますことをお祈りしております。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は1/13新月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)