小さな声が聞こえるところ69「背伸びを教える年長さん」

 新学期が始まり1ヶ月。
どこの園でもまだまだ、新入園児さんたちの泣き声は聞こえていることでしょう。
入園当初から泣いていた子は泣かなくなり、それまで頑張って泣かずにいた子が泣き始めたりもするものです。

虹のこども園も然り。でも連休明け、今までのように泣いたり、「帰る〜!」と騒いでいるように見えても、目は笑っていたり、涙は出ていない子も。
そう、お母さんと離れる毎朝の「儀式」となっていきながら、少しずつ自分の気持ちを自分で引っ張っていくことができるようになるのですね。
いざお母さんと離れてみると、3分もせずに、楽しそうに園の仲間たちの中に入っていく年少さんたち。今まで知らなかった「みんなといる世界」の楽しさを、こうして知っていくのです。
人間の成長ってすごいなあ!

連休に入る前の保育中、こんなことがありました。
朝登園したらまず手を洗うのですが、園の水道は昔ながらの作りで、小さな年少さんは初めのうちは蛇口に手が届きません。それで、近くの大人や気づいた子どもが蛇口を開けてあげるのですが、その水道に年長のゆかちゃんと、園で一番小柄な年少のあきちゃんが並んだ時のことです。
いつものようにあきちゃんが「水出して」とゆかちゃんに言いました。ゆかちゃんは蛇口を開けてあげながら、「あきちゃん、”背伸び”って知ってる?」と言うのです。

ポカン、としているあきちゃん。
そうしたらゆかちゃんは、自分の両足のかかとを思い切りあげて見せて「あきちゃん、ゆかの足を見てごらん! ほら、これが”背伸び”だよ。ゆかもね、うめ組(年少)さんの時は届かなかったけど、背伸びしたら届くようになったんだよ!」と嬉しそうに話すのです。

まだ小さなあきちゃんは、お姉さんが教えてくれていることに、やっぱりポカン、としながら手をゴシゴシ洗っていました。でも、ゆかちゃんのなんだか包むような優しさは、しっかり伝わったように感じました。

「みんなと一緒の暮らし」は、こんなにも優しく豊かです。
幼稚園はお勉強するところでも、先生の言うことをよく聞いて学校に行く練習をするところでもありません。こんな風に、人間が集って暮らすことの豊かさ、楽しさをしっかり味わうところなのです。
幼稚園って、楽しいね。みんなといるのは、うれしいね。

*文中は仮名です


(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は5/26満月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。

2008年「東仙台シュタイナー虹のこども園」を開園。幼稚園部を中心に、未就園児親子クラスから小学生クラスまで、12年間にわたる子どもの成長を見守る草の根の教育機関として運営。
東京をはじめ、全国各地でシュタイナー講座・子育て講座を開催。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)