小さな声が聞こえるところ73「シュタイナー園の”お印”のおはなし」

 先日、園のSNSでも少し触れたのですが、梅雨真っ盛りのある朝、年少さんの女の子に蝶々の入ったプラスチックの容れ物を「はい、ちょうちょ」と渡されました。
蝶々は脱ぎたての蛹の殻をそばに置いて、容れ物のプラスチックの壁にたどたどしく留まっています。
お母さんからのお便り帳には、「小松菜についていた青虫を育てていたら今朝羽化しましたが、マンション暮らしなので園庭に放してほしい」とのことでした。なるほど。
 

 みんなで観察すると、虫好きの年長の女の子が「きれいな模様の羽だねえ」としばらく感心するように見惚れていました。

雨の合間に、お庭でそっと放しました。生まれたての蝶々は、ラズベリーの茂みに雨宿りするように飛んでいきました。
 

ちなみに、この蝶々を連れてきてくれた女の子の園での「お印」も蝶々です。

園では、名前を書くのではなく、すべてはこの「お印」の絵で、持ち物やお当番表やロッカーなどを表記しています。どんぐりや泉、お日さまやお月さま、お花といった自然のモチーフから、船やお家、機関車など子どもに親しみのあるものを選んで素朴に表しているものです。
幼稚園部のみならず、園に入会した幼児は全てこのお印をもらうので、0歳児の親子クラスから幼稚園部卒園までこのお印を6年間使う子どももいます。

園を離れて使われなくなったお印は、しばらく「おやすみ」した後に、新しく入ってきた子どものお印になります。卒園を控えた子どもたちは、自分のお印が次はどんな子どものお印になるのか、または自分が使っていたお印はかつてどんな先輩たちが使っていたのか、知りたがったりします。

お印の絵は、70種類ほどあります。全てわたしの手描きの絵です。
絵を描くことはあまり得意ではなかったので、園創立当時にこのお印を創案して描き出すことは、私にとってかなりの大仕事でした。もちろん、最初から70種ほどを描いたわけではありません。次第に増えていく子どもたちの数に従って、描きたしていったお印もあります。

そうして決してうまいとは言えない担任のお印の絵が教室のあちこちに使われているわけですが、不思議なくらいこのお印の絵は、教師である私たちにとってもその子の印象と深く結びついていきます。その子どもが卒園したり、園を離れていって何年経っても、そのお印を見るとその子のことがつい昨日一緒に過ごしていたかのように思い出されるのです。今使っている子どものお印を見て、数年前に巣立っていった子どもに想いを馳せることも度々です。子どもたちの記憶は、このお印の中にずっと息づいているのです。

そして子どもたちもまた、自分に縁あって与えられたお印と自分を結びつけて感じているようです。イメージはいつも、具体的な日々の暮らしに結びつきながら、子どもたちが日々出会いを重ねている世界と自分が肯定的に”結びついているもの”として感じることを深めていってくれます。

そう、冒頭の蝶々を持ってきてくれた女の子も、入園して蝶々のお印をもらっていっそう、蝶々に親しみを持ち始めたようです。それはそのまま、自然界への親しみを持った近づきを意味します。

シュタイナー幼稚園の教室に子どもの名前が文字で表記されないことの工夫の意味は、こんなところにも隠れているのです。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は7/24満月の更新です。)

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ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。

2008年「東仙台シュタイナー虹のこども園」を開園。幼稚園部を中心に、未就園児親子クラスから小学生クラスまで、12年間にわたる子どもの成長を見守る草の根の教育機関として運営。
東京をはじめ、全国各地でシュタイナー講座・子育て講座を開催。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)