小さな声が聞こえるところ92「新入園児六人六色」

 新年度が始まりました。
今年は幼稚園部は6名の年少さんが入園しました。
初めて親御さんから離れての集団生活となる子、保育園から転園しての入園となる子、様々です。
6名中4名は、この春卒園した子どもたちの弟妹という珍しい年で、兄姉の送迎につきそうかたちで物心ついた頃から園への憧れを抱いてきた子どもたちなので、入園にかかる期待は数ヶ月前から膨らましていたようです。
 
その期待は、色々な形で表現されます。
 
張り切って登園してドアを開けたまでは笑顔だったのに、振り返ってお母さんと離れるところで大泣きするAくん。
とっても大声で派手に泣き叫び、他の子が集まって心配そうに顔をのぞいています。
あんまり泣くので、無理をさせないようにとお母さんに早いお迎えを頼む電話をしたものの、いざお母さんが迎えにきてくれると「やっぱりおやつを食べてから、、、」となり、そのあとは外遊びも楽しんで、給食を食べ終えた頃には「もうおかえりなの?」ときょとんとしています。
 
いつも元気いっぱい、子犬のように走り回ってるBちゃんは、給食のスープを配膳している私の前で「みて!みて!側転ができるよ!」といきなり側転をして危うくみんなのスープをひっくり返しそうに。注意されたら、テーブルの下に隠れてしまい、引っ張り出して抱っこしたら、膝の上でホカホカのおしっこを大量にジャーっと出しました。
止まらない温かなおしっこに、思わず笑ってしまいます。
 
未就園児の親子クラスに通っていたつい先月までは、いつもお母さんにぺったりで甘えっ子だったCくんは、お母さんと離れることができるのかしら、きっとたくさん泣くのだろうなと思っていたのに、意外や意外、お母さんといざ離れてみたらとてもしっかり者で、泣くどころか、何もかもがうれしそうで、トイレに行くのも、歯を磨くのも張り切ってやっています。
 
そのほかにも、お母さんと一緒の時にはスカートの影にずっと隠れていて声もよくきけなかった子が、園に入ってみるととてもおしゃべりで「先生、あのね、あのね」とずっと話しかけてくれたり、新生活への緊張もあってか初日から熱を出して途中で帰る子がいたりと本当に子どもの姿は様々です。
十人十色ならぬ、六人六色。
 
そして、こうした入園時の姿が思い出せなくなるほどに、3年後の春にはよりその子らしい輪郭があらわになって、頼もしい1年生となり巣立っていきます。
その3年は、長いようであっという間です。
人間がその長い人生の最初の土台を作る幼児期は、いわば青虫からサナギを経て蝶へと変容していくような掛け替えのない黄金時代であることを、改めて思います。
 
この春巣立っていった1年生から、こんな手紙が届きました。
 
虹のこども園を卒園して、ふりかえり後に続くこども達に送るメッセージの暖かさと力強さに心打たれながら、この子が入園した3年前の春の様子を思い出して、すべての子どもが持って生まれてくる、人間が内包している成長しようとする力の素晴らしさに、改めて畏敬の念を抱かずにはいられません。
 
(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は5/1新月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)