小さな声が聞こえるところ46「こわいものなあに」

親子クラスに来ている2歳のAちゃん。
落ち着いていて、いつも安定感があり、
園に来るのを毎回とても楽しみにしています。
入室するといつもは張り切って遊び出すのに、
今日に限っては教室に入った途端に泣きそうな顔。
その視線の先には、、、Yくんのお父さん。
Yくんのお母さんは今日お仕事なので、
代わりにお父さんがご参加くださったのでした。

Aちゃんは、「男の人」が苦手です。
よそのお父さん、通りすがりのおじさん、おじいちゃん、みんな苦手。
いつもはお母さんから離れてさっさと遊び出すのに、
今日はお母さんにくっついて離れようとしません。
しまいには「帰る」と言い出しました。
お母さんもせっかく楽しみに来たのにと困り顔。
さて、どうしましょう。

男の人が苦手な小さな子はとても多いです。
前回の「言葉に頼らない子育て〜大事な3つのこと」
書いたような理由もありますし、
単純に母性に慣れ親しんでいる子どもにとって、
自分の家族以外の男の人は、見知らぬ社会的なにおいがする、
「遠い知らない世界の人」という印象を与えて、不安にさせるかもしれません。

私は「帰る!」とお母さんに訴えているAちゃんを、
おやつのクラッカーが焼けたかどうかオーブンを見に行こう、と誘いました。
Aちゃんは、大好きな「おやつ」に気持ちがひかれて、ついてきました。
美味しそうなクラッカーが焼きあがったにおいに、ちょっと心が解けたようです。
天板からアツアツのクラッカーをざるにあけるのを興味深げに見ています。

それから抱っこして一緒に教室に戻りました。
抱っこされていると、それだけで「守られている」感じがして、安心です。
そして「Yくんのお父さんて、とっても優しいお父さんなんだよ。
ご挨拶に行ってみようか。」
と言いました。Aちゃんは、黙っているけれど、嫌がってはいません。
私はそっとYくんのお父さんのところまで近づくと
「お父さん、このかわいい子は、Aちゃんって言うんです。どうぞよろしく。」
とご挨拶してみませました。
Yくんのお父さんは優しく「Aちゃん」と名前を呼んでくれました。
それから、「何歳なの?」と聞いてくれたら
Aちゃんは二本の指を立てて「2歳」と小声で言いました。
お父さんが「タッチ」とそっと手を差し出してくれて、
Aちゃんもその手をそっと触れました。

さあ、ここまできたらもうAちゃんの「こわい」の心は、解けています。
そのままお父さんの脇で遊び始めました。
もう、私もお母さんもそばにいなくても平気です。
そのあとの外遊びでは、すっかりYくんのお父さんを頼って、
自分から話しかけていました。

子どもはこうして見知らぬ「こわい」を
少しの勇気で超えながら、親愛の情に変えていき、
世界を広げていくのですね。

小さな子の「こわい」は大人が感じるいわゆる「恐怖」とは全く違うものです。
それは未だ自分が知らない見知らぬものへの警戒でもあります。
自分を守るための警戒心は大事ですが、
幼児期は警戒心よりも、世界に安心して身を委ねられると言う
「世界への信頼感」を培うことの方が大切です。
信頼感よりも警戒心を先に教えてしまうと、
成長してからも漠とした不安感や恐怖がついて周り、
「自分らしく自由に生きる」ことが非常に困難になっていきます。

子どもはいろんなものをこわがります。
犬や猫といった動物や虫などの生き物、暗闇や風の音や、聞き慣れない鳥の声、
特定の人や場所やシチュエーション、水や土の感触をこわがることもあるかもしれません。

こわがる理由はそれぞれでしょうし、
無理強いすることはよくないですが、
私たち大人は、なるたけそのこわさを「安心」に変えていく手助けができるといいですね。
「怖がるから遠ざける」のではなく、「怖がらなくて大丈夫だよ」と
伝えていってあげられますように。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は6/21新月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)

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