小さな声が聞こえるところ53「健康の定義とスピリチュアリティ」

この秋から、兼ねてより構想していた連続講座(オンライン)を始めます。
テーマは「子どものスピリチュアリティの育て方」です。

スピリチュアリティってなあに?
と思われる方もいるでしょう。
ひと昔前に流行った「スピリチュアルブーム」を思い出す方もいるかもしれませんね。
今も「スピ系」という言葉が、ある種揶揄されるように使われたりしています。

確かに、目に見えないもの、
物質としての形を持っていないものについて語るときには、
慎重さと誠実さが必要です。
無いものをあるが如くに語るのは、ペテン師です。

私がそれでもあえて「スピリチュアリティ」という言葉を
今回講座の中心に持ってきたのは、
まさに「スピリチュアリティ」という言葉が、
多く誤解されて世に広まり、
一部は商業的に利用され、
私たち自身から離れていってしまっていることについて、危惧しているからです。

本来、スピリチュアリティ(霊性)とは人間の根源に、
芯としてあるものです。

WHO(世界保健機関)の憲章前文をご存知でしょうか。
「健康の定義」として、中学校の保健体育で習ったことがあるかもしれません。

ーHealth is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 

ー健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)

健康とはつまり、病気があるとか、障がいがあるとかということではなく、
そして体や精神のみのことではなく、
社会的なありようとしても、満たされている状態だ、ということを定義しています。

この定義に、実は1998年に新しい提案があったそうです。

Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 

ー健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、霊的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

この提案は、WHO執行理事会で総会提案とすることが
賛成22/反対0/棄権8で採択され、
そのことが大きく報道されました。

そのため、健康定義は改正されたと誤解している人も多いのですが、
その後のWHO総会では、
「現行の健康定義は適切に機能しており、
審議の緊急性が他案件に比べて低い」
などの理由で、審議入りしないまま採択も見送りとなり、
そのままとなっています。

実はもう20年以上も前から、人間の健康を定義する上でも、
「人間とは身体と精神と霊と社会的存在」としての要素を
公的に指摘されていたのですね。

ところが、その人間を育てる現場の最前線である教育や保育の場では、
この spiritual  =霊的、精神的 というところが、今でも全く語られていません。
いや、かつて過去には、それが最重要なこととして大事にされてきた時代もありました。

しかし産業革命以降、世界がどんどん経済至上主義に指向していく中で、
目に見えないもの、形のないものは価値無いものとして、
忘れ去られていく途上にあるように感じています。

現代は、先行きの見通しがつかない不確実性を
誰しもが感じています。

経済至上主義が跋扈する唯物論的な現代社会では、
現在の自分の置かれた状況を理解するための、
人間の起源と運命
(私たちはどこからきて、どこへいくのか。
私たちはなんのためにここにいるのか)
に関する思想を持っていないため、結果として自分という存在への認識も深まりません。
つまり、自己肯定感を持つことが子どもに限らず、
大人にとっても非常に難しい時代なのです。

これからの時代に人間が真の意味で健康を取り戻し、
行き詰まりが指摘される教育に新しい息吹を吹き込むには、
人間の芯としての霊性(スピリチュアリティ)への再認識が不可欠だと感じています。

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大人も一緒に育っていく「子どものスピリチュアリティの育て方」

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(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は10/2満月の更新です。)


文・虹乃 美稀子(園長/担任)
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、
シュタイナー幼児教育者養成コースに学ぶ。
南沢シュタイナー子ども園にて吉良創氏に師事。
06年、シュタイナー親子クラス開設
08年、「東仙台シュタイナー虹のこども園」開園   
仙台・東京・岩手にてシュタイナー講座・子育て講座を通年開催
著書「小さなおうちの12ヶ月」(河北新報出版センター)
2020年11月 新著刊行予定(青春出版社)


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Instagram|@steiner_nijinokodomoen

 

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)