小さな声が聞こえるところ58「アドヴェントに入りました」

今年は満月の前日の11月29日がアドヴェント入りの日でした。
アドヴェントとは日本語で「待降節」とも言い、クリスマスの前の日曜日から数えて4週前の日曜日から始まる「クリスマスを待つ時節」の意味です。

園ではこの日に「アドヴェント・ガーデン」のセレモニーをします。
お部屋いっぱいにモミの枝が渦巻き状に敷かれ、その間を「りんごろうそく」を持って一人ずつ歩いていきます。
集まるのは、日が落ちて暗くなってくる時間。
教室は薄暗いまま、アドヴェント・ガーデンの真ん中に灯された大きなみつろうろうそくだけが静かに灯っています。
教室いっぱいにモミとみつろうの香りが満ちているなか、子どもたちが静かに入って自分の席に座ります。
さっきまで玄関越しに元気な声がワイワイと聞こえていましたが、教室に入った途端、わんぱく坊やもおしゃべりさんも、お部屋の静けさを吸い込むようにおとなしくなります。

毎年11月も下旬になると、休みの日に先生たちで森の中に分け入り、エッサホイサとモミの枝を切り出すところから準備は始まります。
シュタイナー幼稚園の先生は「何でも屋さん」です。
時にはこうしてモミや笹竹を切り出しに木こりのように森に入り、のこぎりや鉈を振るいます。
給食を作るときは食堂のおばさんのようになりますし、
歌や踊りを創作するときは芸術家です。
編み物や染め物をするときは、職人さんといった具合でしょうか。
とにかく、得意なことも不得意なことも、なんでもチャレンジでやってきました。

子どもたちは、アドヴェントに入る1週間前から「みつろうろうそく作り」を始めます。
毎日、お帰りの時間に湯せんして溶かしたみつろうにタコ糸を垂らして少しずつ太らせ、自分のろうそくを作るのです。
だんだん太っていくみつろうを見ながら、クリスマスという特別な季節がやってくることを感覚で感じます。

りんごは毎年、ご縁ある秋田の農家さんに頼んでいます。
新鮮でパリッとしていてとっても美味しいのです。
農薬の代わりにEM菌栽培というものを行ってらっしゃいます。

そのほかにもクリスマスに向けての手仕事の準備、プレゼントの準備、生誕劇の準備、、、
と数々の準備に忙しくなるのがこの季節。
毎年行っているすでに園の「伝統行事」になっています。

準備は本当に大変ですが、毎年同じようにやることがある幸せも、年を重ねるごとに感じています。こうして私たちは季節のめぐりと自分の中のリズムを呼応させて、心身を整えているのでしょう。
私たちの世代がすでに失ってしまった農耕民族として大事にしてきた数々の民俗行事も、こうした季節のめぐりの中で、大事に準備を重ねて行われてきました。

アドヴェントセレモニーも準備は数日間かかりますが、セレモニーそのものはほんの30〜40分程度なのです。それでもこの短くも尊い時間をみんなで作り上げることに大きな意味があるように感じます。こうした準備にかける時間とエネルギーこそが、セレモニーそのものを豊かで意味あるものにしてくれるのでしょう。

今年のアドヴェント・セレモニーも無事に終わりました。
お母さん、お父さんの歌声に包まれ、みんなでりんごろうそくを灯し、美しい光景をしばし無言で眺めた後はもうお帰りです。
一人ずつ、お母さん方がこっそり作ってくれておいた金紙で折られた星のネックレスを胸にかけてもらって帰ります。

暗くなって園を後にするなんて、一年で一度きりの特別な日。
満月前夜のお月様が、子どもたちの背中を照らしていました。

(この連載は毎月満月・新月の更新です。次回は12/15新月の更新です。)

ABOUT

虹乃美稀子東仙台シュタイナー虹のこども園 園長
園長および幼稚園部担任他。
公立保育士として7年間保育所や児童相談所に勤務後、2000年に音楽発信ホーム「仙台ゆんた」を開き、アンプラグドのライブ企画など行う。
並行してシュタイナー幼児教育者養成コースに学び、南沢シュタイナー子ども園(東京都東久留米市)にて吉良創氏に師事。
08年仙台ゆんたに「虹のこども園」を開く。
民俗学とロックとにんじんを好む。1973年生まれ、射手座。

著書
『小さなおうちの12ヶ月』(河北新報出版センター)
『いちばん大事な「子育て」の順番』(青春出版社)